やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年11月19日

【エッセイ】二男の結婚


【エッセイ】二男の結婚 


 今年は暖冬だと思っていたら、立春を過ぎてから寒の戻りがきた。この冬も先が見えたと高を括っていただけにひときわ身に応えた。肩凝りを知らない私が、連日身を縮めているので肩が凝り出したころ一雨あって、雨が上がるともう、光の色も、頬をなでる風もすっかり春になっていた。二月の末に二男の結婚式を終えた私たち夫婦は一週間後の日曜日の午後、百枚以上のスナップ写真を、またぞろ手にとって「春って子離れと同じようにやってくるねぇ」と顔を見合わせた。
 ついこの間のような気がするが、明けたから昨年の十一月中頃だった。いつも帰りの遅い二男が珍しく早く帰ってきた。「今日は早いのねぇ」とお汁を温めようと立ち上がると、「話があるから座って」とにこりともしないで言った。炬燵にも入らず正座した膝の上に置かれた握りこぶしは心なしか震えている。車で通勤する彼に、「事故?」すぐ頭をかすめたのはそれだった。「結婚します。もし許してくれなければ押し通してもするつもりだから──」。緊張して白く見える顔は他人のように見えた。うちでは前から相手が誰であれ、どんな条件であれ二十五前に結婚は認めないと言ってあった。彼はまだ二十三歳である。社会人になったばかりではないか。彼女は一つ年上の同じ会社の社員という。ショックは私だけ出なく、何十年と欠かしたことのない晩酌を途中で止めてしまった夫にも、青天の霹靂だったのだろう。今では珍しくなくなった離婚も若い結婚が圧倒的に多いという。あえて火中の栗を拾わなくても……子どもの幸せを願わない親はいない。よかれと思ってする反対も、恋愛中の当人たちには、踏んずけてでも乗り越えなくてはならない大障害にしか見えない。過ぎてしまえば誰でも思い当たることだが恋とは一つの偏見であり、恋愛とは錯覚と自己陶酔の産物である。思いつめた目は切羽詰ったものを感じた。江戸時代の大店ではなし、現実には勘当というわけにもいかない。その上、三十年前とはいえ二十二歳で結婚している私が「じゃ今、後悔している?」と当の本人の前で聞かれても困ってしまうのである。
 思いは先方も同じだったらしく、こちらが会社の部長さんを仲人に立てて正式にもらいにゆくといっても、その前に両親が来いという。その日も、都合が悪いと再三延ばされた。やっと三人で先方に伺ったのは小春日和の初冬の日曜日だった。
 海に近い明るい新興住宅地で、新しい家が多い中で落ち着いた庭付きの二階家だった。まず少しほっとした。やや植え過ぎの庭を「いい庭ですねぇ」といつもの夫とも思えぬお世辞をいっている。三人三様に緊張しているのだ。やがて向かい合って両家が座ると、オンザロックの氷のようにじんわり角がとれて馴染んでいくのも心地よく受け止めて、心底ほっとした。相手も同様にどんな変わり者の親に、不良息子かと身構えていたらしい。心を開いて話し合えば、どちらも子どもは二人。こちらは未婚だが長男は東京に住む社会人。向こうも弟が来年度小学校の先生になるという。父親は安定したサラリーマンだし、母親も真面目すぎるのが欠点のような人だった。順不同に初孫が先にきたのと、若さを除けば大騒ぎする話でもなかった。
 親たちのややほっとした表情を見抜いてか、式から新居の支度まで百万近くある自分たちの預金ですべてやるという二男の最初の条件はどこへやら、結納金から挙式まで親がかりになってしまった。体型を気遣ってか晴れのドレスは妙にふわふわした一番高かったという豪華なものだった。そのせいか誰にも気付かれずにすんだのかもしれない。ただ意外だったのは牧師さんの前で愛を誓うとき、花嫁の目がみるみる潤んで、ボロボロ頬を伝う涙を見たことだった。冷静に冷静にと自分にいい続けていた私もジーンとくるものがあった。向こうの両親も泣いていた。
 やがて式も終わり教会を出る瞬間、待ち構えていた米の華の雨の中を手を組んで大きな口を開けて笑っている写真がここにある。まるでスターの結婚式のようだ。長男の撮ったビデオのVТRの最後に二男がカメラに向かってVサインをしている。なにか彼らにしてやられた気がする。案外この子たちはこうしてスイスイ世の中を渡っていく器用さとしたたかさを併せ持っているのではなかろうか。
 旅行の土産を持って一時間ほど里帰りしたとき、デニムのつなぎにズック靴のお嫁さんは「○○くん車に一つ土産忘れちゃった、持ってきてくれる?」「いいよ」。二男は親にも見せたことのない機嫌のいい気軽さで踵を返すのである。

《終》


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posted by maruzoh at 08:03| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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