やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年10月14日

【エッセイ】結婚記念日


【エッセイ】結婚記念日 


 十月二十三日は、三十五回めの結婚記念日だった。三十五回もあったのに、記念日などとあえて行動を起こしたのは今回が初めてである。若い頃は生活に追われ、次は子育てやアルバイトに追われ、ここ五年ぐらいは息子たちの結婚に伴う新しい行事に追われた。孫たちの七五三や誕生日には、自分たちのことはつい忘れてしまう楽しさがあるから、それはそれでまたいいのかもしれない。
 夕食後のテレビで、世界最大のカニ・高足ガニの水揚げの様子を放映していた。年々、数も少なくなっているという。
「一度、食べて見たいもんだなァ」
「高いかもね」
 いま映っている戸田港は、沼津からジェット船で一時間ぐらいで行くことが出来る。
「明日の結婚記念日、三五と節目だから少し高くても食べに行かない?」
 ちょうど土曜日で勤めも休みである。
「じゃ、我が家の一大イベントといくか」。
 当日はいい天気だったが、富士山が今ひとつはっきり見えない。久しぶりの青い海、潮風に吹かれて、珍しい高足ガ二のフルコースとわくわくして降り立った沼津駅は、木枯らしを思わせる冷たい突風だった。
「どうする?」。出鼻をくじかれた。
「前にひどい目に合っているからね」
 何年か前、やはり伊豆に旅行した帰り、小さな竜宮丸という船が木の葉のように揺れ、後ろの座席の老婆が念仏を唱え出したりして、生きたここちもしなかった経験がある。
「やめようよ」
「じゃ、どこへ行こうか」
 思えば三十五年前も、結婚式の夜、歓呼の声に送られて駅まで来たけれど、どこへ行こうかと取り合えず伊東まで切符を買った思い出がある。新婚旅行に行く予定もなくて、行きがかり上駅まで送られて来たのだった。その話をすると、子供たちは大笑いをするけれどたった三十五年前に、まだ新婚旅行には行かない人もあり、熱海や伊東は、新婚旅行のメッカだったのである。
「三十五年経っても進歩がないなあ」
とぼやく夫に、まったくだと私も納得。
 急の突風で寒くてたまらない。取りあえず目の前のデパートに入った。定年から二年、気楽な第二のお勤め三か月目、夫の最大の変化は買い物好き人間になったこと。以前は一緒にデパートに来ると、喫煙所に座りこんでたばこを吸い続け「まだかい?」といらいらしていた。今は一緒にショッピングを楽しんでいる。
「これどう?」
 マネキンの着ているセーターを指すと、
「派手じゃないかな?」といいつつ乗り気。
 目ざとく見つけた店員にお似合いですよといわれ、グリーン基調の総柄のセーターを買ってしまった。私もはやりの長めのチェックのジャケットを買った。大きな袋を一つずつ提げて歩きながら、これはこれでいい記念だと思う。昼食は駅近くの評判の寿し屋にした。例のごとく混んでいたが、今日は張り込んで北海ちらしと茶わん蒸し、ビールも一本。
 午後、沼津に長く住んだ歌人若山牧水記念館へ行った。タクシーの運転手が
「沼津は風の多いとこだけど、今年は少ないですよ。今日は特別だなァ」という。私たちの結婚は、何かちぐはぐなところがあるのだ。
 まだ新しい牧水記念館は、風の音も聞こえず静かな、明るい空間を作っていた。入館者も十人ぐらいで、立ち止まって展示物に見入ったり、メモしたりそれぞれの世界に浸っている。朝二合、昼二合、晩六合の一升酒を毎日飲んでいたという牧水は、たくさんの歌を残し、四十三歳で寂しさの果てなん国へ、慌しく旅立ってしまった。
 日当たりのいいラウンジで夫はコーヒー、私は冷たいジュースを飲んだ。テーブルの上には石蕗の花がさりげなく生けてあった。ガラス越しの秋の日を背に受けて、時間の止まったような静かさをしばし楽しんだ。
 駅行きのバスが来る前、千本松原まで海を見ながら歩こうと路地を曲がると、堤防の上の海岸道路に出た。ここはまた別世界だった。空は晴れているというのに、真っ直ぐ立っていられない風の強さ。押し寄せる波、白い波頭が巨大なテトラポットに当たっては砕ける。そのしぶきが堤防の上の道を歩く私たちにまで降りかかる油絵の世界のようだ。静もいいが動もいい。しぶきを浴びて、踏ん張って風に向かって歩くと、ドラマチックな気分になる。このままずっと歩き続けたいと思った。楽に生きることが幸せな生き方とは限らない。時には風に向かい、しぶきを浴びる方が心躍る。
 変化に富んだ私たちらしい、いい結婚記念日になった。

《終》


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posted by maruzoh at 17:20| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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