やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年10月10日

【エッセイ】それぞれの秋


【エッセイ】それぞれの秋 


 終着駅のホームに降りたつと、人々の群れは、川の流れのように昇降口に向かう。あっ、あの人かな。やはり人の流れに逆らって立ち止まってきょろきょろしている人がいる。あの人だと思った私は、「Sさんよねぇ──。お久しぶりです。お元気そうで……」といって、声を掛けた。「ここまで出てきて、わからなかったらどうしようと思って」。ちょっと下ぶくれの顔と、おっとりした話し方が三十七年の年月を一気にとび越えてきた。
「せっちゃーん」と向こう側のホームを、小学生のように手を振りながらTさんが駈けてくる。これで三十七年振りに、八ヶ岳の写真の三人が集まった。
 昭和三十一年か二年の秋だったと思う。写真は勿論白黒である。連なる山々を背に、風になびくすすきの原で三人の乙女が思い思いの方角を向いて立っている。三人はそれぞれ自然なポーズで、それでいてまるで石庭の石の配置のように過不足なく様になっている。当時写真といえば山を背に横一列に並んで、ジィッと真正面を向いていたものだ。私はこの写真がとても気に入っていた。いま、フォト・コンテストに出しても通用しそうな、情感のある奥行のある写真である。映画の一場面のようだ。
 私たち三人はF市の小さな洋裁学校の生徒だった。戦後の荒廃をやっと抜け出して、高度成長期に入る前ぐらいに当たるだろうか。若者たちは文化に飢えていた。芝居をやるグループ、絵を描くグループ、映画サークルなどブンカブンカドンドンというかしましさだった。ハイミスの洋裁学校の先生は、その文化の中の中心に鎮座していた。教室が空いている時はいつもどこかのグループが無料で借りていた。
 絵を描くグループは水曜の夜だった。画家の娘で自分も絵を描くTさんとは、戦争中疎開してきた小学三年生からの親友である。私とTさんはバイトにモデルをしていた。勿論ヌードではない。
 絵を描かない私とSさんがどうしてスケッチ旅行に一緒に行ったのか思い出せないが、グループのリーダー格だったF氏が、お目当てのTさんを連れ出すかくれみのだったのかも知れない。そう思ってみると、輝くような横顔を見せているTさんにピントが合っているようにも思われる。
「八ヶ岳の写真まだ持ってる?」「あるわよ」とSさん。「雑貨屋の二階と離れに泊ったのよね。あれって民宿の始まりじゃない?」
 私とSさんは、皆が描いている間あちこち歩き回り、十一月の初めに広大なひまわり畑を見つけた。種子を取るためだろうか、夢でもみている気がした。のちにイタリア映画の『ひまわり』を観て八ヶ岳を思い出したりした。
 F氏とTさんはいい関係を深めたが、結納の直前になって、一まわり違う年の差と、父親を亡くした長男の立場のF氏と、ひとりっ子のTさんとの家同士の折り合いが付かなくて破談となってしまった。その二年後、画家のお父さんを急病で亡くし「箱入り奥さん」だったお母さんを守って、お姫様は逞しいキャリアウーマンに変身、ずっと独身を通し、後二年で定年である。
 一か月前、Sさんは久しぶりに実家へ帰った時、姉さんの出た高校の同窓会名簿が送られてきた。バラパラめくっていて、旧姓のままのTさんの住所を見つけなつかしさで、Sさんはすぐはがきを出したという。Tさんも驚いてその日のうちに私に電話してきて、MOA美術館での思いがけない再会となったのだった。
 私は昭和三十三年、映画サークルをやっていた夫と結婚、照る日曇る日ばかりか、台風の日さえあったがどうにか乗り切って無事二年前に夫も定年を迎えた。二人の息子もそれぞれ二人ずつの子どもの父親になっている。
 海の見える美術館の庭を歩きながら聞いたSさんの話は意外だった。私たちより二歳年上のSさんは、あの写真のすぐ後に、大きな農家の次男とお見合いをした。話はとんとん進み、宅地をもらい家を建ててもらい、三十四年の正月にその家で結婚式を挙げたという。夫は一つ年下で子どもがなかったので、休みには一緒に釣りに行ったり、山登りしたり「あの人が子どもの代わりをしてたみたい」と笑う。「犬と三人で住んでたの」とも。ただ、一年一回、大家の田植えの時は嫁はみんな田んぼに入らされて、あんまり辛いので日記に書いてあると真顔でいう。
 その夫が心臓麻痺で急逝して十五年になる。葬儀に駆けつけた会社の人に、前に一度会社で心臓が苦しくなったことがあったと聞いて、何も知らなかった自分に愕然とした。その時の犬の落ちこみ方にも驚いた。いまも夫の部屋も背広も以前のまま、犬も去年死んだが、心の中ではまだ三人暮らしだという。
 五十八歳の私とTさん、六十歳のSさん、三人の人生も、それぞれの秋を迎える。

《終》


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posted by maruzoh at 08:13| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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