やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年10月06日

【エッセイ】男と女


【エッセイ】男と女 


 私は市立図書館の近くに住んでいるので、よく利用させてもらっている。五年前になるだろうか。長いこと書架に立ち止まって本を選んでいた時、新刊書の棚に続く閲覧者用のイスに座って私を見上げている中田夫人と目が合った。近くに住んで顔は知っているというだけの間柄だったが、印象に残ったのはこの人と図書館があまりにもミスマッチだったからである。彼女は有名な厚化粧で、私は密かに水商売の出ではないかと思っていたくらいだった。
 ご主人の中田さんが「やあ、こんにちは」と五、六冊の本を抱えて書棚の方から出てくると、夫人はばたんと見ていた写真集を閉じて立ち上がった。中田さんとは同じ駐車場を借りているので、時々顔を合わせていたが、こうして二人一緒に見るとますます意外な気がした。髪の毛を茶色に染めた化粧の濃い丸ぽちゃな夫人と細身でダンディな夫である。読書好きで、そのうえ律義そうな夫と、開けっ広げで派手好みな妻である。
 その年は二年ごとの地区の役員改選の年で、定年になって暇そうな人が当てられる。一度はみんな回ってくるというので、うちも仕方なく引き受けた。仕事のほとんどは雑用で、女の仕事だった。その中に敬老会の手伝いがあり招待状を配るところから始まる。はがきをめくっていくと中田夫人の名前が出てきた。あの人は七十五歳にもなるのか……。中田さんの分はない。
 配りに行くと意外だったらしく「えっ?」と絶句した。その年からの招待だったらしい。「奥さんその日、手伝いに行くんですよね」「えぇ」「悪いけどその料理、奥さん持ってきて食べてくれない?。私その日留守になるから」という。「そんなことできないわ。他にも来られない人がいると思うから代理と書いてもらってきてあげる」
 慌しい受付が住むと一段楽した。ど演歌のカラオケを聴きながら名簿とはがきの整理。代理も来られなかった人が幾人かあり、中田さんもその一人だった。片付かないので手分けして配達することになった。中田さんには私が持って行くと案の定留守だった。裏口にも鍵がかかっているので、干してあったボールを被せて置いてきた。公会堂の片付けを終わって、もしや猫にでも食べられてはいないかと帰りに立ち寄ってみた。なんと料理はなくなりボールはもとの所に戻してあった。あれから一時間も経っていないのに──。
 その夜、中田夫人が赤卵を十個ほど持ってやってきた。「きょうはありがと。これ、今私が産んできたんだから新しいわよ」と、おどけて有無を言わせず置いて帰ってしまった。
 それから道で会うとあいさつしたり、立ち話をするようになった。いつか旅行にいくため朝早く駅へ急ぐ途中、一人でウォーキングしている中田夫人に出会うことがあった。グレーのトレーナーの上下、首にタオルを巻いてたスッピンの中田夫人を初めて見た。
 ある日の夜八時ごろ、救急車のピーポーが近くで停まったような気がしたが、辺りが静かなので気にも止めないでいた。翌日カットに行った美容院で昨夜のピーポーは中田夫人が風呂場で転倒して入院したことを知った。しかも後ろの方から聞こえてくるひそひそ話に私の耳はダンボになってしまった。
 ちょっと風変わりな取り合わせだなと私が見ていた中田夫妻は、二つの家庭を壊して駆け落ちしてきたのだという。しかも奥さんが八歳年上のカップルだったとは──。人の心と海の深さは計り知れないというが、男と女の心のうちは更に計り知れないものがある。
 一か月ほどして退院してきたというので果物を持って顔を出すと、夫人は車イスで言語障害もかなり残っていた。それでも必死で喋るのを夫の中田さんがいちいち通訳してくれた。
 それから街のスーパーの袋を持った中田さんを時々見かけるようになった。献身的な看病にだんだん疲れ果てて行く様子は服装でよく分かった。街へ出る近道で公園を通り抜ける時、ベンチにポツンと座って餌を食べる鳩をぼんやり見ている姿を二度見かけた。急に老けた。
 その中田さんが、生ゴミを出しに行って転んだ。すぐ起き上がれないのを見た美容院のご主人が助け起こしたが家まで送ろうとすると、手を払いのけるように断られたという。
 打ちどころか悪かったのか、その夜ピーポーが鳴って中田さんは入院、奥さんは施設に収容された。看病に疲れ枯れ木のようになっていた中田さんは二週間後にあっけなく他界した。中田さんの姪だという人が一人来て借家の留守宅をテキパキと片付け、家財の大部分はゴミとして出された。
 葬儀の日、車イスの中田夫人は涙でくしゃくしゃとなり痛々しかった。素顔は色白で美しいと思った。葬儀は田舎でやるということで姪と夫人、組合の男の人五人だけで火葬場へ向かう車を、集まった知人・隣組の女の人たち十人ほどで見送った。

《終》


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posted by maruzoh at 06:43| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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