やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年09月30日

【エッセイ】トンネルの向こう


【エッセイ】トンネルの向こう 


 暖かい静岡に生まれ育ったせいか、私は子どものころから、雪に特別な憧れを持っていた。
 冬もそろそろ終わりに近づき、今年も雪は駄目だなと思っていたとき、夫が「ふらっと小旅行しようか」という。「いいねぇ、雪見と洒落ようか」と話はたちまちまとまった。でもどこまで行けば雪があるのか、新聞の天気予報欄を見ても、雪だるまは新潟にしかない。
 夫は昨年八月、六十歳の定年を迎えるまで仕事大事に徹し、定年後の今も仕事人間。私も息子たちが結婚するまではまともな親でいたいと自己規制してきた反動か、年の割にはとっぴな発想をする。
 旅の本を見て越後湯沢の旅館に当てずっぽうに電話してみた。「そちら雪が降っていますか」「先刻から降り始めました」「積もりそうですか?」「もう一メートルも積もっていますよ」「本当に?」。そのまま翌日の予約をとって、朝の一番電車で出発した。
 高崎を過ぎても、周りの山々には雪がなく明るい青空である。昨夜の電話は本当だろうか、まるで狐につままれたようだ。上越線の水上駅に近くなると、山々に雪が見え出した。電車が駅に滑りこんだ途端、車窓から駅前広場で雪かきをししている駅員さんが目に入った。線路の中央に溝があって、雪解け水を集めているのだろうか、小川のように流れている。
 水上を出ると長いトンネルに入った。その長さはちょつと不安になってしまうほど続く。何しろトンネルの中に駅が二つもあるのだ。そして「国境の長いトンネルを抜けると雪国であった」。文豪でなくったってそう書くよと思うほど風景は一変した。その上粉雪が舞っているではないか。二人の中年は、雪焼けしたスキー客の軽蔑の横目も気にせず「いいわねぇ」「すごい!」を連発した。
 宿は越後湯沢だったが、まだ時間が少し早いので、湯沢を通り越して二つ目の塩沢に降りてみた。ここは前々から興味を持っていた『北越雪譜』の著者・鈴木牧之の生まれた町だからである。町内にある菩提寺の境内に小さな記念館があると聞いていた。駅には大きなストーブが赤々と燃えている。ああ雪国に来たと思わず手をかざして雪国を手で実感した。鈴木牧之記念館は、平成元年のふるさと創生事業に乗って、素晴らしい木造建てで作られていた。長い間、心に描いていた鈴木牧之の坐像が懐かしい人のように私たちを迎えてくれた。『北越雪譜』は、表日本の人間には思いも及ばなかった豪雪地帯の越後の民俗・習慣・伝説・産業など、特に雪については日本で初めての本である。江戸末期、天保八年に出版され、当時のベストセラーだったという。
 一時間あまりたん能し、外に出ると吹雪になっていた。一時は前が見えないほどで、どうしようと思ったがそれはじきに止んだ。雪というものは、波状的に降るものらしい。この町は融水というのか、雪を解かす装置があって、雪が降り出すと自動的に作動して水を出して雪を解かす。道は歩き易いが、私たちのように普通の靴ではすぐ濡れてしまう。どこまで行っても駅につけないので、道に迷ったかなと目を上げると、「鈴木牧之翁生家」という看板があった。けがの功名で生家も見ることができた。生家は酒屋になっていた。
 越後湯沢の駅に着くと、宿からマイクロバスが迎えに来てくれた。ここは川端康成が『雪国』を書いた宿だった。昭和九年から十二年にかけて、「かすみの間」で執筆した。今は建てかえられて鉄筋六階建てになっていたが、「かすみの間」は当時のまま復元されていた。早速私たちは川端康成の座った席にかわりばんこに座って写真を撮った。
 湯沢という名だけあって、湯量の豊かな、いい温泉だった。私たちは温泉に浸っては、ほてりを冷ましながら、六階の大きな窓に張り付いて飽かず雪を眺めた。雪は吹雪いて白い不透明な世界にしたかと思うと、空からのおたよりという風にひらひら舞ったりした。仲居さんの話によると今でも一夜に一メートルも積もることがあるという。
 帰りは上越新幹線に乗るや、長い長いトンネルに入った。トンネルを抜けるとあっけらかんとしたピーカンだった。私の靴はまだ水を含んで濡れているのに、はるか彼方の山の上に、灰色の雪雲があるばかりだった。

《おわり》


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posted by maruzoh at 10:09| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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