やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年09月24日

【エッセイ】夫 婦


【エッセイ】夫 婦


 思わず立ち止まってしまうほど、大きな五輪塔が建ち並ぶ坂道を、買い物袋を下げたおばさんがとことこ下ってくる。 鎌倉は、歴史と日常がさりげなく共存している街である。
 友人は住所を書いたはがきを片手に、一軒一軒、表札を覗き込んでせかせか歩いている。一度しか会ったことがないという友人の二従姉妹(またいとこ)のご主人が急逝された。二年前、母一人子一人だった彼女のお母さんが亡くなった時、また聞きに聞いて、わざわざ鎌倉から駆けつけてもらった有り難さを、今日お返しに来たのだった。私はシャイな親友のたっての頼みで仕方なく付いてきた。
「まあ──、遠い所をよく……」
 目指す家は、坂の途中にあった。
 私は近くの喫茶店で待っているつもりで、読みかけの本を持ってきたのに、あれよあれよという間に、私まで写真の前に座らされてしまった。これも何かの縁とお線香を上げさせていただいた。今日で三七日(みなぬか)だそうで急なことで仏壇もなく、出窓に骨壷と並んで置かれた遺影は、穏やかに微笑んで、知的な人柄が偲ばれた。
 友人の二従姉妹のHさんは六十六歳には見えないモダンな人で、宝塚の生徒がそのまま初老になったような方だった。ご主人はもともと肝臓が悪く、若い時に肺結核の手術もしていた。医者に通いながら、定年後も七十歳で急逝するまで、週三回東京へ通っていた。専門分野の技術者だった。
「駅の階段なんかで倒れなくてよかった」。救急車の中で息を引き取ったという話を、早口でまるで自分に言い聞かせるように順を追って克明に話すのだった。
「ごめんなさい。わたしったら初めての人にまでこんなお喋りして……私、普段はこんなにお喋りじゃないのよ」と、笑いながら涙を拭いて……また続きを話し出すのだった。
 鎌倉のはずれの坂の途中にあるこじんまりした家に、東京から移り住んで七十と六十六になる二人が寄り添って生きてきた。子どもはいない。それが突然ひとりになってしまった。Hさんの心中も分かる気がする。
 昼近くなったのでお暇しようとすると、どうしてもと二階に上げられた。二階には六帖二間と三帖間が一列に並んでいた。端の六帖に通されて窓に向かって座ると、思いがけず目の前に海が光っていた。あれが江の島で天候がいいとその上に富士山が見えるのだと、曇天を見上げて、Hさんは何度も残念がった。
「お顔見たときすぐ、お寿司頼んじゃったの、ごめんなさい。まだお料理する気になれなくて、毎日簡単なもので済ましちゃってるの」。はにかむ様子がまるで少女のようだと思った。「ご主人、やさしそうないい顔していらっしゃる」。友人もご主人には会わずじまいだった。
「あんまり仲いいのも、こういう時ひどく落ち込むんでしょうね」と私。
「仲がいいというか……でも二人きりだからどこに行くにも一緒だったし……他人には仲よく見えたわね」と遠くを見る目をした。
 ご主人は飛行機の部品工場を経営していた父母と台湾で終戦を迎えた。残って技術指導してほしいというのを蹴って、無一物で引揚げてきたという。生活の苦労もし、酒も飲んだり、身体もこわしたりしたが、晩く結婚した後は、穏やかに暮らしてきたという。
「大声出したり、暴力ふるったりしたことはないけど、暖簾に腕押しみたいなところもあったし、何考えてるのかわからないところもあったわ」
「三十年も暮らして来たってことは、照る日、曇る日で普通じゃないですか」と私。
「いつも燃えてる関係って、疲れるか、燃え尽きるか……長く続かないわよ、きっと」。自分は独身を通してきた友人。
「夫婦なんて、一番いとおしくて一番憎らしい間柄かも……仕方ない運命共同体よ」私の実感をいう。
「親子だって同じよ」。二年前に、八十七歳のお母さんを送った友人はいう。
 二十年近く飼っているという猫が、のっそり入ってきて当然のようにHさんの膝へ乗る。
「この子が私たちのメーセージボーイだったの。言いにくいことはこの子にいうの。この頃、帰りが遅くて困るねぇとかね」
猫をはさんで、弥次郎兵衛のようにバランスを取って暮らして来たのだろう。これからは、文字通り猫可愛がりしたから、時間をかけて乗り越えなければ……。いろいろの夫婦があるなと思った。
「ひとりで喋っちゃって……本当、今日は元気が出てきた、ありがとう」と二時過ぎ、明るい声で送り出された。この人は大丈夫。
 帰りの電車の中で、彼女は若い頃男の子ひとり置いて離婚し、亡くなったご主人とは再婚だったと聞いた。人間はみんないろいろなドラマを抱えて生きているんだなあとため息が出た。

《終》


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posted by maruzoh at 08:30| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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