やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年09月18日

【エッセイ】占いの押し売り


【エッセイ】占いの押し売り


 朝のテレビで、速くて安全が売り物の新幹線で、また殺人未遂事件が起こったと伝えている。犯人は精神病歴のある面識もない男で理由は、目が合ったからという。その場で逮捕された。その前の殺人に至った事件も似たような事件だった。
「視ること、それはもうなにかなのだ。自分の魂の一部分、あるいは全部がそれに乗り移ることなのだ。」
 梶井基次郎が何かに書いていたのを思い出した。見るということは魅入られることである場合もある。
 先日、友人が占いの押し売りにうまうまと三千円取られた。申しわけないがおかしかった。友人は何代か続く陶器店の奥さんである。この町ではメインの通りに面し、間口も広い。いまはご主人と二人で切り盛りしている。
 その男はちょっと店の中を伺うように小首を傾げながら通りかかった。入り口で足を止めたので、いつもの通り「いらっしゃいませー」と声をかけた。少し疲れた背広に、綿コートのその人は、目を見て、ツツーっと入ってきた。
「奥さんは、子どもさんが離れていきますね」
といわれドキン!とした。
長男、長女は結婚して他県に住み、東京にいる大学生の二男もそちらに就職するだろうという矢先だったから──。さらに目と手相を交互にみながら「奥さんは八十五以上、長生きしますよ」という。友人は思わず頬がゆるんだらしいが良く考えてみると、見た目にも丈夫そのもの、三人の子育てをこなし、大きな店を切り回し、無事更年期を乗り切った人は、事故にでも遭わない限り、平均寿命は生きられるというのは常識ではないか。
 そのうちご主人の名前を書かせて姓名判断を始めた。紙に無造作に書かれた蛇のような線は、ご主人の運気を示すといい、一気に上昇してあと九年周期で上下するという。これは日本経済の高度成長の頃の動きそのもの。四十七歳まで一気に上昇というのは、日本史にもまれな高度成長の時期にあたって、たいていの日本人の暮らしは、多かれ少なかれ楽になっているはずだ。
「ご主人には、女難の相が出てますね」
 上目づかいに覗き込まれた。
「まさか、家の人に限って!」
「そう思うでしょう、それが間違いのもと」
「そんな器用なことが出来たら、かえっていいんですけどね。堅物で──」
「そんなこと言っていいんですか? 遊び慣れてない人が怖いんですよ。若い時から真面目一筋で来た人が、ある年になって覚えた味は、浮気じゃなくて、すぐ本気になるからね」
 そう言われれば、そうかも……とも思う。その時、配達に出ていた夫が、冬だというのに鼻の頭に汗を浮かべて帰ってきた。店を通り抜けて、何か胡散臭い男とヒソヒソ話をしている奥さんを、事務室に入り際にじろっと見た。彼女は話の区切りを潮にレジから千円札一枚出して
「あのー これでコーヒーでも飲んでください」
 と差し出した。それを見ると男の態度が変わった。
「わたしは普段は新宿に出ているんです。一件につき三千円戴いています。今日は旅行中だし、全部で三千円でいいです」
 と、言い放った。
彼女は、もう一刻も早く帰って欲しくて、奥の事務室に聞こえないかはらはらしながら、レジをそっと開けて二千円足して渡した。ゆうゆうと帰っていく男に、いつもの癖で「ありがとうございました」と言ってしまったのも、口惜しいという。
この話を聞いた時、私は声を出して笑ってしまった。彼女も仕方なく苦笑した。
「浮気封じのお礼なんか、三万円ぐらいで売りつけられなくて良かったじゃない」
 と軽口を叩いた。
私にはちょっと気詰まりなくらい完璧人間の彼女に、こんな間抜けた一面があったかと思うと、ほっとしたのだが──。  

《終》


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posted by maruzoh at 08:32| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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