やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年09月08日

【エッセイ】福 豆


【エッセイ】福 豆


 図書館から本を借りて正面玄関を出ると、道をはさんで隣接する浅間大社境内が何かざわめいていた。一緒にいた夫が「あっ、今日は節分だ」といい、豆まきを見に行こうと誘った。
 私は気が進まなかったが、神社の近くに住んでいながら一度も豆まきを見たことがないので、見学するのもいいか……と、後をついて行った。
 子どもが小学生のころ、節分の翌日の新聞に大きな写真が載っていた。その人混みの中の前方に、コーモリ傘を逆さに広げた男の子と、大きな紙袋を広げていた男の子が写っていた。あれ?もしかしてと虫眼鏡でよく見ると、それは二人のわが子だったという思い出がある。
 広い境内はもうかなりの人出だが、ほとんどが子どもで、二割ぐらいの大人が遠巻きにして待っている。社殿の方では節分会の行事が続いているらしく、まだ豆の撒き手が出てくる気配はない。
 夫はその儀式を見に楼門の中に入って行ってしまった。私は場違いな所へ来てしまったような、落ち着かない気持ちになっていた。(帰ろうかな)と歩きかけると
「帰るの?一緒に福豆、拾いましょうよ」と声を掛けられた。
 振り返るとヨガ教室で何度か顔を見たことのある、町内の奥さんだった。
「私、拾えそうもないし……」と尻込みすると
「秘伝、教えてあげる。去年もたくさん拾ったんだから」
 連れを探していたのか、放しそうもない。開始時間が迫ってきたのか、どこからと思うほど人が集まってくる。大人もかなり増えてきた。もう千人以上の数になったようだ。人・人・人の中で、私は奥さんに思わず寄り添った。
 人はどんどん増えてくる。空気がピーンと緊張したと思ったら、鳥帽子・直垂姿の年男たちが桝を片手にして、中央の石段をはさんで東西二十人ぐらいずつ一列に並んだ。その石垣の下では、今や遅しと人の波がどよめいている。
「もっと前へ行かなきゃ駄目よ」
 奥さんは私の手をぐいぐい引っ張って石垣の近くまで進んだ。
「いい?下に落ちたのが取り易いのよ」
 要領の悪い私は、無理だなあと、早くも弱気になっていた。それでも奥さんを見て身構えてはみた。
「鬼は外!福は内!」
 年男は想像していたよりも小さな声で豆を撒きはじめた。私は、はっ!と右手を出してまず一つゲットした。思わず、「よしっ!」と心の中で叫んだ。それを本を持っている左手に素早く持ち変えて、利き手の右手を空けた。そして本を借りてきたことをひどく後悔した。
 それから右手を何度上げても掴めない。何度目かにやっと取った福豆は、中学生ぐらいの男の子に横取りされてしまった。次もまた落とした。それを拾おうと下を見ると、目の前に三つも落ちている。
 すかさず三つを左手に持ち変えると、前の人の股の間からみかんが一個転がってきた。これもいただき!。こんどは袋に入った飴が飛んできた。これも掴んだ。もう左手に持ちきれない。そうだ、ポケットだ。コートの左のポケットに全部入れた。
 豆を撒く年男の次第に大きくなった掛け声と、拾い手の歓声が渦巻く中、我を忘れた何分かが過ぎた。気がつくと右のポケットもいっぱいで、両手も持ちきれない。
 豆まきは終わった。待っていた割にはあっけなかったが、両方のポケットはずっしり重い。
「奥さんの秘伝のおかげよ。少しあげようか」
「いえいえ、これ見てよ」
 奥さんはおどけてコートのポケットを叩いた。大きく膨らんでいる。私は西門の石段の中央に立ち、人の流れと反対に向いて夫を探した。夫は手を振りながら現れてポケットを押さえて見せた。
 連れ立ってS病院の脇を通るとき、顔色の悪い近所の奥さんが病院から出てきた。
「福のお裾分け!」
 私は、おかめの面と熊手の絵が印刷された小さな三角の福豆の袋三個を、手提げの中に入れてやった。
「わぁ、うれしい。これで風邪も吹っ飛ぶね」
 家に帰って炬燵の上に成果を並べた。私は福豆十六袋、みかん六個、飴二個。夫は福豆八袋だった。しっかり握りしめていた本も無事だった。大いに満足し二人ともハイになっていた。
「どこかに桝あったろう」
 夫は枡を捜し出して、何年ぶりかの豆まきをした。私も芝居気たっぷりに豆を撒いたり拾ったりした。そのあと鰯の丸干しを焼き、乾杯して楽しい節分を祝った。明ければ立春、暦の上では春が来る。
 人は老いると何もかも悟ったように落ち着いて、何を見てもしらけ勝ちになる。だが、些細なことにも感動したり、面白がって生きる方がいい。それは心掛け次第で、案外身近に転がっているものだと節分で体験した。
 今年は福豆にあやかって、いいことがあるような気がする。

《終》


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posted by maruzoh at 10:38| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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