【エッセイ】最初の一歩
二人の息子がたてつづけに結婚して、孫が交互に四人誕生した。宮参り、初節句、雛祭り、入学と人並みに振り回されたが、その孫たちもそろって元気な小学生になった。
定年後のあれこれから解放されほっとした時、長男に三人めが生まれるという。息子も三十七歳という中年にさしかかり、私たちは初めてゆとりを持って孫を迎えた。
上京して息子の家に一泊した時の事である。嫁が「今日辺り歩き出しそうなんですよ」「いい時来たわねぇ」ホットな話題に、離れて住む壁もさっと消えた。いままでどの孫も気がつくと歩いていたのである。
日当たりのいい二階の部屋で、コタツを片付け長男一家と私たち夫婦は車座になった。その中で一歳なりに緊張した孫の尋斗(ひろと)はテーブルから片手を離せずにいる。「ヒロちゃんこっち」ビスケットを持ったママの誘いにも溜息をついて歩み出せない。三年生のお姉ちゃんと一年生のお兄ちゃんの声もとぶ。尋斗はやおら一歩を踏み出すと、口を一文字に結び目を据えてママに向かって歩き出した。ママの手になだれ込んだ時、期せずしてみんなの拍手がおきた。尋斗は小鼻をふくらませて、さも得意げに小さな手で自分も拍手した。
《終》
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