やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年08月14日

恋愛ごっこ ―第7回―


恋愛ごっこ ―第7回―


 八ヶ岳を左側に見ながら、初老の四人連れを乗せた電車は小海線をのろのろ走った。小諸で信越線に乗り換えて上田駅に降り立った時には、昼時はとうに過ぎていた。
「取りあえず、腹ごしらえをしなくちゃ」
 時蔵が口を切った。
「ここに来たら、そばだな」
 明彦は久しぶりのにぎやかな旅に浮き浮きしていた。いつまでも走り去る電車を立ち止まってみている国子を富子は引っ張って歩き出した。
「本で見たんだけど、ここは有名なそば屋らしいわよ」富子のお奨めである。
 狭い店の中はかなり混んでいて、四人はやっと席を見つけた。壁にべたべたと歌手やタレントの色紙が貼ってある。
「あら? これ元総理大臣だよね。短命だったけど……」
 富子が見つけると、明彦は
「ここが地盤じゃないの、世の中、これくらいしっかりしてないと、生き残れないんだよ。政治家もそば屋も」と、笑わせる。
「信州信濃のそばよりも、わたしゃ、あなたのそばがいいよってね」
 おどける明彦に、国子は明らかに不快な顔をした。時蔵はちらと見て明彦を目で詰めった。勘のいい富子が
「とうさん!親父ギャグはやめてくれない! 奈津子に聞かれたら馬鹿にされるよ」と制した。
「お、そうだ。こんどのボーナスで娘が俺に油絵道具一式、プレゼントしてくれるって言うんだ。下心はあるらしいだけどね。どうやら奈津子に恋人ができたらしいよ」
 空腹が手伝だって、そばはかなり美味かった。
「まず、上田城址を見ようか。あの真田幸村の父親の昌幸が築いた城だから」と、時蔵が先に立つ。上田城址はそば屋から、そう遠くはなかった。
「わあ、きれい! 歩いてみたくなる道ね」
 国子の機嫌は直っていた。両側が斜めの土手で、そこが欅並木になっている。欅に挟まれた道は、ちょうど散り敷かれた枯葉で柔らかな茶色の敷物を広げたようだ。
「素敵な道だわ」
「ここは上田城の外堀だったんですよ」
「ほんと?」
「養蚕の盛んだった明治の頃は、生糸を運ぶ鉄道が走っていた。昭和四十七年に取り外されるまで、この道にレールが敷かれていたのだから、堀までドラマチックな城だよ。ここは」
「そうなんですか」と国子は身を乗り出した。
 明彦はスケッチブックを取り出して浅間山のスケッチを始めた。富子は三人をパチパチ写している。
 時蔵は国子に城のガイドを続けた。
「天正十一年(一五八三)昌幸が築城した実戦のための平城でね。慶長五年(一六〇〇)の関ヶ原合戦には昌幸と次男の幸村は西軍、徳川の重鎮本多忠勝の娘と結婚していた長男信之は東軍、親子が敵味方に分かれたんだ。のちに二代将軍になった秀忠率いる東軍三万八千に対して真田はわずか三千五百.それでもこの城は、関ヶ原へと心はやる徳川軍を七日間足止めにしたからねぇ」
 一息ついた時蔵は、策士昌幸率いる真田軍に感動したかのように話を続けた。
「徳川軍がやっと関ヶ原に駆けつけると、もう戦は終わっていて秀忠は面目丸潰れさ。この時の恨みは永く後を引いたけどね。城は守ったが西軍は負けて、昌幸、幸村は高野山へ流された。後はご存知の結末さ」
「長男の信之は生き残ったんですよねぇ」
「信之は一度は上田城主になったが松代に移封された。でも信之は名君で徳川の嫌がらせも上手くかわして九十三歳まで長生きしたそうだよ。真田家も明治維新まで続いた」
「その頃、忍者や九の一が活躍するんだよな。子供の頃、忍術ごっこよくやったよ」と、スケッチを終えた明彦も寄ってくる。
「まだオマケがあってさ、明治維新による廃藩置県後の明治七年、払い下げになってこの城は切り売りされたんだ。櫓二つは事もあろうに、移築されて遊郭になって営業していただんとさ。その上、跡地は監獄になった」
 時蔵は今の博物館、美術館、公園になっている場所がそうだと説明して
「波乱万丈のこの城も、やっとほっとしているだろうな」と、つぶやいた。
「それで今でも町中に六文銭の旗印が目立つのねぇ。このしたたかさは二つの戦に勝った誉れ高い真田魂なのね」国子も時蔵の話に引き込まれていた。
「時蔵さんて博学なんだ」富子も聞き入った。
「城にも運命みたいなものや、人生みたいなものがあるのね」国子はしみじみ言った。
 四人は復元された南櫓を見て、ぞろぞろ上田駅へ向かった。
「時蔵さんは、歴史に強いんですね」
 国子はいつの間にか時蔵さんと呼んでいた。
「いやぁ、種を明かせば作家の池波正太郎がなくなった時、この高名な作家の作品を読んでいなかったのに気がついて『真田太平記』を図書館から借りて読んだんだ。おもしろくてあっという間に十六巻読み切り、ノートの備忘録を作った。それで、その後一人旅でここに来たことがある。死んだ女房は読書家だったが、技術屋だった自分が本好きになったのは最近だ」と言った。
 向かい合って座った明彦と富子は、娘の恋人の詮索に余念がない。
 レトロな丸い窓のついた小さな電車は、塩田平の畑の中を、今日の宿泊地である別所温泉に向かって、傾きかけた西日を浴びて、ゆっくり走っていった。

《つづく》


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posted by maruzoh at 08:32| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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