やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年08月08日

恋愛ごっこ ―第4回―


恋愛ごっこ ―第4回―


 次の朝、八十一歳になる国子の母きわが畑中の小道を二枚の皿を持ってやってきた。台所の裏口から黙って上がった。空いた皿をどんと置くと、不機嫌そうに
「いい年をして、人様から後ろ指をさされるようなこたぁ、しないでおくれよ」
「何のこと?」
「良男が心配してるからさ、当節は年金や、不動産目当ての不良老人があるってからよ」
「誰がそんなこと言うのよ」
「澄子の友だちが、お前が男と駅から出てくるのをみたってよ」
 国子は昨日の無邪気にてんぷらをつまみ食いしている澄子を思い出し、むっとした。 国子がここに家を建てる時も、澄子は乗り気ではなかったらしい。そしてその時、東京に住む次男のマンションの頭金に出すことになっていて、生前分与の形で国子の家の土地と政男のマンションの頭金を分けたのだった。五年前突然父が亡くなった時は、財産がどうのというのはそのままになっていた。後継ぎの良男が聞かないので言い出しそびれていた。
 長男と澄子との間には、年のついた三人の男の子がいる。一番上は三十歳である。三人の息子たちの結婚を控えた澄子が良男の尻を突っついて反対させたのは想像がついた。きわは一人身の国子の行く末や、もうすぐ定年なのに社宅住まいの次男のために、ここは一番と澄子と張り合って財産わけをしてくれたのだった。良男は高卒後、地元の製紙会社に勤めた。下の二人が大学に進む時、これが財産分けの代わりだと聞いていたとさえ澄子は口に出して言った。国子はここに帰ってきたのは間違いではなかったかと、大きな溜息をついた。


「何だ、居るじゃないか」
 碁友だちの明彦が裏から入ってきた。洗濯物を干していた時蔵は、ちょっとうろたえた。
「この頃、すっかり顔を見せないから、女房が見てこいって言うからきてみりゃ、何度チャイムを押しても出ないだろう。慌てて裏へ回ったんだよ」
「そりゃあ、悪かった。持つべきものは――だな」
「どうだい、久しぶりに」
 明彦は碁石を打つ手付きをした。
「いいね、ちょっと待ってくれ、これ干しちゃうから」
「お前、この頃身奇麗になったなぁ、前にゃ目いっぱい溜めてから.盛大に干してたじゃないか」
「一人身のじいさんが薄汚いと、孫も寄り付かないからな」
 時蔵は干す手を休めて真顔になり、
「それよか、お前、絵を習いに行かないか、近くの公民館で中高年の絵画教室が始まるそうだぞ」
「絵か――何年も描いたことないなぁ、嫌いじゃないんだ。自慢じゃないが、図画だけはずうーと甲だったからな」
 明彦は得意そうな顔をした。

 尻込みする明彦を説得し時蔵が代表して公民館に絵画教室受講の申し込みをしたのはまもなくのことである。時蔵が予想していた通り年配の女性が多かったが、男性も二割ほどいた。
 初めての授業の日、鉛筆のデッサンから始まった。レベルはまちまちなので、それを見るためか前の机に本に寄り掛かって座らせたマニー人形を自由に描かせながら、先生はゆっくり机の間を、うえから見ながら歩いた。先生は明彦の前に立ち止まって「いいタッチですね」と言った。時蔵はひょいと立ち上がって覗き込んだ。ショックだった。大きく嘆息した。時蔵は消しゴムを出して自分の絵を上からごしごしとすべて消した。消す力で机が動いたのか隣の眼鏡の女性にじろりと睨まれた。
 時蔵は週一回の絵画教室が疎ましくなった。元中学の美術教師だという痩せこけてひどく日焼けした男の先生も嫌いだった。時蔵を通り越して明彦の前にばかり立ち止まるのであった。
「これ、どうだい」
 人形のスケッチに水彩で色をつけた作品をひらひらさせながら、明彦が勝手口から入ってきた。
「自分で塗っちゃっていいのかい?」
「いや、教室で描いたのは別にしてある。おれが描いた絵を見て、娘の奴、お父さん見直したって煽るもんでもう一枚描いたら、自分の使いかけの古い水彩絵具を捜し出してくれたんだよ」
 帽子からはみ出した毛糸の髪の毛はいかにもふんわりと、小さな白い前掛けは風で今にも動き出しそうに描かれていた。時蔵はまるで小学生が描いたような自分の絵を慌てて裏返した。
「うまいなぁ」
 時蔵は心底感心した。碁ではいつも負かしていた明彦に、こんな才能があろうとは――。
 明彦には二人の子供がいる。跡取りと思っていた長男は、東京に就職し家庭を持って三人の子持ちである。いまさら田舎に帰る気はないらしい。最近は夏休みに子供だけ一週間くらい里帰りさせるが、正月にも帰ってこない年もある。早く嫁にと思っていた娘の方は会計事務所に勤め、三十歳過ぎても食費四万円ずつ入れて大威張りで居座っている。明彦が勤め時代の悪友とパチンコや競輪に行くのをひどく軽蔑していた。
 明彦の絵を見て妻の登美子も
「お父さん、見直したよ」と、まんざらでもない顔をした。
「おい、ちょっと、それを貸してくれないか。手本にしたいよ」
 と時蔵は言った。
「手本なんて、そんな」
「いや、本当に――」
 まんざらでもない顔で明彦は彩色した人形の絵を置いて帰っていった。

《つづく》

《つづく》


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posted by maruzoh at 07:12| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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