やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年08月06日

恋愛ごっこ ―第3回―


恋愛ごっこ ―第3回―


 ことのほか暑い夏だった。が、たて続けにきた二つの台風がにわかに秋を連れてきた。一日で一〇度以上も気温が下がって、国子はあわてて長袖を引っ張り出した。
 時蔵とのハプニングのような甲府行きは、日帰りの美術館行きに過ぎなかったが、後になって考えると、国子には大きな出来事だった。しかもそれが心の中でどんどん増殖していくのに戸惑った。しかし別れ際に時蔵から渡されたメモを取り出してみても、電話を掛けてみるのは憚られた。
 この夏、熱射と環境問題に便乗した黒い日傘が流行した。白人に多いという皮膚がんを恐れて、色白の国子は早速買い求めた。彼岸を過ぎたばかりの日中は、しつこく暑い。もう今年はしまおうと手にした黒い日傘をそのままにして、国子は衝動的に普段着のまま街へ出た。
 時蔵の住む町はかなり郊外の住宅地にあった。高校を卒業するまでこの町の郊外で育った国子ではあるが、四十年ぶりに移り住むと、知らない町のような変わりようだ。
 だらだら坂をあがると閑静な住宅街があった。国子の知らない、新しく出来た団地だ。道端にある町名を書いた白い案内板を過ぎると、国子は黒い日傘で顔を隠すようにして、両側の家を見ながらゆっくり歩いた。高度成長の頃の建て売りらしく、どの家も小じんまりとして、少し古びていた。当時の働き盛りが、いまリタイヤ族になって、初老の夫婦ばかりがひっそり住むというたたずまいだ。
 二つ目の角を曲がると、二軒目に「村上」という木の表札がかかっていた。やはりあった。国子はどきりとし、そしてほっとした。郵便受けには村上時蔵とマジックで書いてある。メモと同じくせのある字である。国子は確認すると逃げるように角を曲がって裏に回った。小さな庭があり、軒下に男物のシャツ・パンツ・靴下が四角い吊るし型の物干しに下がっていた。
 国子は足早に通り過ぎた。裏手まで覗き見る形となった狭い路地を小走りで抜けると、小さなスーパーがあった。思わずそこに飛び込んだが、夕食の支度にはまだ間があるためか、店内に人はまばらだった。国子は時蔵がいないのを確認すると、取り繕うように、ししとう・レンコン一節と青い蜜柑を買った。
 
 その夜、国子は久しぶりに精進揚げを作った。さつまいももいいな、昨日実家でもらった茄子もと増やしていく。気がつくと大皿三枚に大盛りとなった。一人分の揚げ物はおっくうで最近はスーパーの出来合いで済ませていた。一人暮らしらしい時蔵の食卓が頭をよぎった。大きく窓を開けて揚げ物の臭いを追い出した。
 国子が高校に通った頃まで、この辺りは田舎だった。友人も滅多に来ないところだったが、たまに尋ねてくる友人があれば、母は家で作った菊の花や野菜を土産に持たせたりした。両親は一人娘の国子が県外の中学校へ就職したときも、結果的には三年で破れた職場結婚にも反対だった。それからずっと、一人暮らしの国子が定年を迎えたときは、強引に実家近くに呼び寄せた。すぐ下の弟が両親と住む母屋と地続きの畑に、退職金で無理やり小さな家を建てさせられた。土地がただというのと、どこか気弱になっていたところもあるが、国子はそれまでできた女同士の人間関係も捨てがたかった。
 引越し荷物をまとめたあと、手伝ってくれた友人が、"ふるさとへ回る六部は気の弱りってね"と、茶化したのが身に堪えた。年金はあるが一人身の老後はやはり不安だったのだろうか。
 近頃はこの辺りも、ぼつぼつ人家が増えて、茶畑の上に広がる空は、すっかり秋色だった。鰯雲が夕日にオレンジ色に染まり、国子は大きく深呼吸した。急に空が高く見えた。
 茶畑の向こうの道を弟の嫁の澄子がこちらを見ながら通るのが見えた。
「澄子さーん、精進揚げもってかない!」
 国子は思わず声を掛けた。
一日働いて空腹らしい澄子は小ぶりのさつまのてんぷらを一つつまんで「おいしい!」
 とオーバーに声を上げた。国子も気を良くして「家族が大勢だから」と二皿分を持たせた。
「お姉さん、助かります。今日は大分手が抜ける」
 澄子は捧げ持つようにして野菜畑の中の道を帰って行った。

《つづく》


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posted by maruzoh at 08:11| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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