やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年08月04日

恋愛ごっこ ―第2回―


恋愛ごっこ ―第2回―


 時蔵は何年ぶりかの興奮で昨夜はほとんど眠れなかった。白髪の混じったひげを剃りながら顔の筋肉が緩んで困った。待ち合わせた駅で十分前から待っているのに国子は現れなかった。諦めかけて独りでも行くべきか迷いながら和服の女を捜していると
「寝坊しちゃって――」
 白いブラースに紺のパンツ姿の国子は、時蔵の期待とはかなり違ってはいたが、二枚の切符を示すと「あら、すみません。帰りは私が買いますから」と言って、改札を通った。
 平日の特急は空いていた。沿線の土手には彼岸花がくどいほどに咲いていた。時蔵はふと後ろめたい気にもなったが、ぶるぶるっと首を振って振り切った。
 季節の話と景色の話をすると二人の話題はなくなった。時蔵は美術の話しが出たらどうしようと気が気でなかった。電車が身延を過ぎると下部温泉駅に停まった。
「ここに金山資料館があるんですよ。とてもいい設備で見応えがあります」
「私はそういうことに、とんと不案内で――」
「一度お連れしたいですよ」
 ついでに温泉に入ったりしてとか、一泊してとか――は、心の底に押し込んだ。
「長篠の戦で武田が織田に負けたのは、金銀はあっても、鉄砲鍛冶の技術が遠くにあって新兵器を調達するルートがなかったからですよ。例え火縄銃でも刀や槍とは比較になりませんからねえ」
 美術の話にもっていかないための口塞ぎのように時蔵は久しぶりに雄弁になった。
 電車は人家も見えない山の中をひた走る。
「こんな山の中の小国が、一つ違えば天下を取りそうな場面もあったんだから、信玄は人物だった。山梨には今でもしっかりものが多いですよ」
「そうなんですか」
「市内でも大きな商店は山梨県出身者が目立つし、山梨から稼いでくる人が多いですよ」
「へえ!」
 国子は驚いた表情で時蔵の話を聞いていた。
「富士宮の出身ではないんですか」
「ええ、三年前に来たばかりで……」
 時蔵はちょっと喋り過ぎたかなとも思いつつ母親が信仰していた蓮如は、人は軽きが良し、もの言わぬは恐ろし、と言ったではないか、と心の中で言い訳をした。

 県立美術館も深閑としていた。六十歳以上無料というのもうれしい。受付で免許証を忘れたのを思い出した。まごまごしていると「どうぞ」と言われ、戸惑ったが七十一歳では当然と居直った。
 国子はバックから免許証を出した。時蔵は素早く写真の上の生年月日を盗み見た。昭和十一年と読めた。美代子と同じ年だ。館内には定年後だと思われる夫婦がちらほらいた。他人の眼にはわれわれもそう映るだろうかと時蔵は思ったりした。
 昼に甲州名物のかぼちゃのほうとうを時蔵が解説付きでご馳走した。二人は武田神社に立ち寄り、早めの特急で帰ることにした。甲府駅で国子は足早に窓口に走って切符とお茶と蜜柑を買ってきた。帰りの車中では、座席の二人の隙間は少し縮まったような気がした。
 時蔵は二年前に妻を亡くしたこと、二人の独立した息子のことを聴かれもしないのにボツボツ話した。国子は、一度行ってみたいと思っていた美術館だったが、時蔵の誘いに気軽に乗ってしまった自分を軽い女だと思われやしないかと、言い訳がましい話をした。
「やあ、うれしかったですよ」
 時蔵は、かわいい女だと思った。今は名刺のない暮らしなのでと言い訳しながら、手帳を破り住所・氏名・電話番号をメモ書きして国子に渡した。国子は受け取って「今日は思いもかけず、楽しかったですよ」と、時蔵に礼を言った。
「また図書館で会えるといいですね」
「はい」
 国子のきっぱりした返事に時蔵は、ほっとした。
 車窓から見る甲斐の山々は秋の夕日に映えて、釣る瓶落としの夕暮れには間があった。

《つづく》


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posted by maruzoh at 05:41| Comment(0) | ◆澤田節子作品集 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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