俺様とマリア volume.72 場外乱闘
総合やボクシングなんかの格闘技とプロレスの大きな違いの1つに場外乱闘がある。リングを囲むロープの内側が「場内」で正規な闘いだとすれば、ロープの外側、リングの縁であるエプロンの下からは「場外」となり、そこで繰り広げられる非正規な闘いが場外乱闘という訳だ。
この場外乱闘、ルールで指定されたリングという闘う場所があるくせに、そのまた外でも闘いが継続されるなんてのは、柔道の試合で赤い畳の外から出た同士が審判の制止を振り切って試合を続けているようなもんで、頭の固い輩からすれば理解し難いことかもしれない。しかもプロレスの場合は、リングの外は治外法権状態になっているから、椅子で背中をぶっ叩いたくらいじゃ反則負けになるなんてことにはならないときてるから更に悩んじまうに違いない。
でもこの新宿に限らず世の中全体を見渡しても、ルールで定められた場所以外で闘うことや、反則にお上が目をつぶるなんてのは日常茶飯事の当たり前で、むしろ正々堂々としたスポーツライクな争いなんてどこを探したところでおめに掛かれやしない。「場外乱闘」って言葉自体が、プロレス以外のマスコミで使われることが少なくないってことからも分かるように、プロレスってのは他の格闘技に比べてより人間臭い闘いで、だからこそ奥が深いんだろうって俺様は思うんだ。
と、話が横道に逸れちまった。なぜ急に俺様が場外乱闘の話なんかをしたかというと、ウェアウルフの左ストレートに顔面を打ち抜かれた俺様が、その勢いのまま背中のロープを支点にして1回転、リング下に落下しつつあるからだ。いやいや、心配はご無用。ステップバックしながら、わざと受けたんだからダメージはほとんど無い。別に強がりを言ってる訳じゃないぜ。ロープに詰められてなかなか脱出させてもらえそうに無いから、奴のパンチ力を利用してリングの外に押し出してもらったって訳さ。
その証拠に俺様は空中で猫並みのしなやかさで姿勢を正して、リング上のウェアウルフと正対する様に場外に着地するや否や、
ガキャッ
マッケンロー一閃!中西学のオリジナル、足殺しの超低空ラリアットだ。サードロープの下から上腕で両脚を刈るという攻撃に意表を衝かれたウェアウルフは、ガクンと体勢を崩したもののトップロープを掴む事によって辛うじて転倒を防いだ。ところがどっこい、こっちの方がお誂(あつら)え向きってなもんさ。
「よいしょっと」
俺様は掴んだロープのせいで両手の塞がっちまったウェアウルフの右足を掴むと、リングの外に向けて力任せに引っ張ってやった。
ズズズッ ドサッ
ウェアウルフが腰の辺りから場外に引き摺り下ろされた。ここの場外はコンクリート製に加えて、場外マットも敷いてないってんだから洒落てやがる。
花ちゃんとの対戦の時にも言ったけれど、実力の拮抗する相手との対戦で肝心なのは、自分の得意な土俵で勝負するってことと、相手の冷静さを奪っちまうこと。そう考えてみりゃあ、場外乱闘ってのは俺様の大得意な分野だし、ウェアウルフも短い訓練の中で場外乱闘なんざ習っているはずも無えだろうから、これは俺様にとってホームラン級の閃きだったかもしれない。
但し、このトーナメントは武器の使用だけはご法度、即反則負けだから、いくら場外乱闘とは言え、調子に乗って椅子攻撃なんてのは、絶対に厳禁。それだけは肝に命じておかなくっちゃな。さあ、反撃開始といくか。
【To be continued.】
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