俺様とマリア volume.66 リンダの花占い
準決勝第2試合が終わってウェアウルフとリンダは、俺様と反対側のリングサイドに設(しつら)えられた特別席に腰掛けた。これで花道から続くリングを囲んで鉄格子沿いの正面に神龍、上手に俺様、下手にウェアウルフとリンダという構図に相成った訳だ。
このリングの3辺、当初は2対1(ウェアウルフを入れると3対1か?)の多勢に無勢というシチュエーションだったはずなんだけど、現在の神龍とリンダの微妙にきな臭い関係から、何やら蛇と蛙と蛞蝓(なめくじ)の三竦(すく)みの様相を呈してきたようだ。
まあ、神龍ファミリーの権力闘争なんぞは俺様にとっちゃどうでもいいことで、マリアに続く道を阻むものがあれば、それが誰であろうがただ叩き潰すのみってことだ。ウェアウルフもあの準決勝じゃ全く疲れてねえ様だし、さあもうインターバルは無用だ。さっさと決勝戦を始めようぜ。
てな感じで入れ込み気味の俺様だったけど、ところがここに全く思いもかけないビッグサプライズが待っていた。
「決勝戦に先立ちまして、本大会のマドンナでありますマリア嬢より、
これまでの健闘を称えて両選手に花束の贈呈があります」
突然のアナウンスに、俺様の心臓が口から飛び出しちまうんじゃないかって位にドキンと鳴った。そんなの全然聞かされてなかったよ。目の前が薔薇色に染まる。マリアに会えるんだ。会って話せるんだ。抱きしめられるんだ。ドキン後の俺様の心臓は、マシンガンが早鐘を撃つような恐ろしい程の勢いで猛り始めた。俺様は心の中で繰り返す。
(嗚呼、マリア、マリア、マリア、マリア・・・)
真っ赤な絨毯の敷き詰められた花道の奥、今度は漆黒のイブニングドレスのマリアが細身の花束を2つ抱えて現れた。殺伐とした空間に咲いた1輪の華麗な華。観客席から溜息とも感嘆ともつかないどよめきが起こった。
(マリア、綺麗だよ)
マリアはスポットライトに照らされて絨毯の上をリングに向かってくる。その距離はどんどんと縮まって、やがてマリアは俺様から見て左側面のリングサイド、つまりは本部席の神龍の正面に立って、リングの四方に役者が揃った。俺様との距離は、もう10メートルもありゃしない。
「マ、マリア―――ッ!」
思わず叫んじまった。雷に打たれたように振り向いたマリアの瞳から、気丈にもそれまで堪えていた涙がぽろぽろと零れ落ちた。カクテルライトに照らされた涙は、まるで宝石のようだ。
「イ、E坊・・・」
そう呟いたマリアだったけれど、リングサイドに待つ黒服の係員に促されて、なんとマリアはリングと場外を囲む鉄格子の中に入っちまうじゃねえか。何回も言うようだがここのリングってのは、普通プロレス会場で言うところの「場外」と観客席とを仕切る安全柵のあるべき場所に、高さ5メートルの鋼鉄製の鉄格子が屹立していて、リングからの逃亡や場外からの乱入を阻止している。
今、マリアが入っていたのはその鉄格子の中で、俺様がこうして身を乗り出しているのは鉄格子の外のリングサイドの特別席。どおりで花束が細身でショボイ訳だよ。鉄格子を通るサイズにしといたってことかい。マリアの安全を考えてのことなんだろうけれど、これじゃあ抱きしめることも、キスすることも出来やしない。
ちょっぴり肩を落とした俺様に悲しげな視線を送ってから、マリアはリング場外を時計回り、つまりは俺様に背を向けるようにしてウェアウルフの方に歩き始めた。
リングサイドの特別席のソファでリンダにもたれ掛かるウェアウルフの前に立ったマリアは、鉄格子越しに恐る恐る花束を差し出した。それを怪訝そうに見つめていたウェアウルフだったが、リンダはそれをむしり取るように手にすると花束を眺めながら言った。
「ほうら坊や、綺麗なお人形さんがお花をくれたよ。
坊やの玩具になる可愛い可愛いお人形さんがね、クックックッ・・・
そうだ、坊やに花占いをしてあげよう。
この可愛い玩具が元の持ち主のところに帰れるかどうかね。
帰れる、帰れない、帰れる、帰れない・・・・」
ここからは見えやしないが、恐らくマリアの顔色は蒼白だろう。肩が細かく震えている。
「帰れる、帰れない、帰れる・・・、最後の1枚だ。
ほうら、やっぱりアンタは、帰れない。
坊やの玩具になる運命なんだよ、クックックッ。
はっはっはっはははっはは・・・」
く、糞ぅ、リンダの奴め。相変わらずの世界一の性格の悪さだ。でも、大丈夫だマリア、俺様は絶対に勝つ。絶対にだ。ウェアウルフになんか俺様が指一本触れさせやしねえよ。
【To be continued.】
☆アルファポリスに挑戦☆
アルファポリスさんのランキング「Webコンテンツ」に挑戦します。「うふふ」とか「ほろっ」とか「なるほど」と感じたら、押してくださいね。