俺様とマリア volume.50 B・B倒れる
確かにウェアウルフの下半身が異常を来たしているのは、間違いのない事実だ。また、通常の闘いであれば、両手両足の4点を着いたパーテールポジションは、アマレスのペナルティになっていることからも明らかなように、攻めに転じにくく当面は防戦一方になるということに異論は挟む者はいまい。
しかし、相手はウェアウルフである。南アルプスでの狼の群れの中、奴はその生活の大半を他の狼同様4足歩行で過ごして来たに違いあるまい。つまりこの体勢こそがウェアウルフの正当な攻撃姿勢なのではなかろうか。
これをチャンスと見て、軽々しく突っ込むのは早計じゃねえかと俺様は思ったんだが、それ以上に手負いのB・Bには時間が無かった。特に付け焼刃の布っ切れじゃあ止め切れずに溢れ出す右手首の出血は、最早尋常ではない。
「いくぜ、覚悟しな」
B・Bは数歩退いた後、中邑真輔のボマイエばりに数度足踏みをすると、鋭角的にその右膝をウェアウルフに叩き込まんと全速力でダッシュした。
ダダタタタッ シャウウゥ
「な、なにぃ?」
か、空振りだ。ダッキングと言うより「伏せ」に近い形でウェアウルフが逃げて、すぐさま振り返る。しかしB・Bも突き出した右足で着地後急旋回、反転しながら左足を一歩踏み出すと、今度は天龍ばりのサッカーボールキック一閃。
ガッ ブウウン
これもウィービングでかわす。B・Bは更にソバット、トゥキック、ヤクザキックと繋ぐが、ウェアウルフは両膝を支点にして、まるでヒップホップのダンスでも踊るかのような円運動で、全ての蹴りを華麗に紙一重でかわしていく。
しかし考えてみればそれも道理だ。パンチや掌底に比べてB・Bならずともキックには予備動作が多い。それに対してウェアウルフの防御は、地面に着けた両腕で上半身を操ることによって更にスピードアップしている。このまま単純に蹴りを続けているうちは、ウェアウルフは捉えきれないだろう。
「くそぉ、チョロチョロすんじゃねえっ」
B・Bはウェアウルフを体ごと薙ぎ払うようにして、地面すれすれに下段右回し蹴りを打ち込んでいった。爪先が唸りを上げて走る。考えたな、これなら避けようが無い。ガードごと吹っ飛ばされるぞ。誰もがそう思った。
ザザッ
ウェアウルフが跳んだ。
ブウウゥゥゥゥゥン
「し、しくったっ」
両手、いや、前足のみで踏み切ったウェアウルフが降り立ったその眼前には、回し蹴りを空振りしてバランスを崩したB・Bの無防備な背中があった。
ウェアウルフは冷静に、B・Bの軸足である左足のアキレス腱を切断した。樹齢数百年の巨木が倒れるようにB・Bはリングに崩れ落ちた。
【To be continued.】
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