俺様とマリア volume.49 パーテールポジションの謎
素手での殴りあいに比べてボクシングのKO率の高さは、グローブの着用にあると言われている。つまり、素手の打撃が点による衝撃であり、皮膚を裂き骨を砕くのに対し、グローブ着用での打撃は面での衝撃となり、結果脳を揺らし、身体の機能を停止させてしまうという訳だ。
B・Bが今放った骨法流の掌底は、まさにその掌がグローブの役割を果たしている。しかも、今の掌底は、掌の中心よりかなり下、手首の延長線上で目標物を打ち抜いているものだから、その反作用を上腕から肘、肩と一直線で支えている為、攻撃目標への衝撃のベクトルに全くロスがない。もしこれがパンチだったとしたら、B・Bのパワーが強力であるが故に手首がその衝撃に耐えられずに折れ、衝撃が2方向に分散されちまっただろう。
「くうぅぅぅぅ・・・」
ダダアァァァン
果たしてウェアウルフは、スタン・ハンセンのウェスタン・ラリアットを喰らった中堅レスラーのように、打撃面を支点にして逆上がりのように半回転させられた後、後頭部からリングに叩きつけられた。
「ぼ、坊や・・・」
リンダの顔から突如、余裕の笑みが消え去った。ウェアウルフには見た目のダメージは全くと言っていいほど無いはずなんだが、流石は神龍の第1秘書、危険を察知する能力は一級品だ。骨法や掌底だを知っているはずがないリンダが、今の一撃がただの張り手じゃないってことを本能で感じ取ったらしく、鉄格子を掴んで大声を張り上げ続けている。
「お、起きるのよ、早く。
坊や、起きるのよっ、坊や!」
やがて、リンダの声は震えを帯びてきた。声に応えるべく、ウェアウルフが反転してB・Bとの距離を取ろうとしているにも拘わらず、どうにも奴の両足が思うように動かないからだ。やはり、今の掌底で脳が揺らされて、足にきちまってる。B・Bがウェアウルフを見下ろして、衝撃でずれちまった止血の布切れをまた固く結び直した。ウェアウルフはパーテールポジション、つまり両手両足をついた状態でB・Bを見上げている。
「右半身(はんみ)、最短距離でドンピシャだ。
やっぱり犬っころ並みの頭で人間様に楯突こうってのが間違いだったな。
なんたって骨法ってのは奈良時代からあるらしいからな。
人間様の英知の結晶の勝利ってな訳だ」
そう言いながらB・Bは、鉄格子のリンダ、本部席の神龍の順で見やったが、ギブアップの意思表示も試合終了のゴングも鳴らすつもりの無いらしいのを確認すると、小さく息を一つ吐いた。
「お前の母ちゃんも、雇い主も薄情なもんだな。
すっかり足の利かなくなっちまったお前に、まだ闘えだとさ。
要は、役立たずはリングの上で血反吐を吐いて死ねってことだ。
まあ、俺には次もあるからサクッと終わらせてやるよ。
じゃあな、本当にバイバイだ」
B・Bがパーテールポジションのままのウェアウルフを見据えたまま、助走をつける為に数歩下がって息ををふうっと吐いた。その時、俺様の脳裏にある仮説が閃いた。パーテールポジション?四つん這い?狼?
ち、違う、むやみに突っ込んじゃいけねえ。狼は四足歩行。これこそがウェアウルフの本来の戦闘体勢なんじゃねえのか?
【To be continued.】
☆アルファポリスに挑戦☆
アルファポリスさんのランキング「Webコンテンツ」に挑戦します。「うふふ」とか「ほろっ」とか「なるほど」と感じたら、押してくださいね。