俺様とマリア volume.42 生ける凶器
「プロレスオタクの素人が、吐いた唾野飲まんとけよ、コラァ!」
茹蛸みたいに真っ赤になっちまった元・獄真会館のアンちゃんが、リングを降りる俺様の背後で凄んでいるんだけど、てめえこそ強豪揃いの2回戦をちゃんと勝ち上がんなきゃ、俺様の待つ準決勝にゃ来られやしねえんだからな。熱くなり過ぎると赤っ恥かくぜ。
俺様が控え室に戻ると救護班の医者が待っていた。大藪センセイと同じ匂いのするどうにも胡散臭そうなセンセイだけど、神龍の伝手となればまともであるわけはねえよな。
そいつはタオルで俺様の汗を拭うと、これでもかってほど消毒液をぶっ掛けて、桜田戦で突き刺さっちまったガラスの破片をピンセットで一つ一つ抜き始めた。しかしこれが、痛いの何の。ガラスまみれのキャンバスに高速スープレックスで叩きつけられた後、ご丁寧にフライングボディプレスまで食らってるもんだから、傷口にピンセットの先突っ込んでガラス片ほじくり出すって感じさ。
「てってててててて・・・」
カチャリ
傷口からガラスが取り出される度にステンレス製のトレイに破片が置かれ、それがあっという間に小山になっていく。こんなにたくさん・・・。プロレスをインチキ呼ばわりする奴らは、1度デスマッチを体験させてもらうといい。2度とそんな口はきけなくなると思うぜ。
俺様は痛さに身を悶えながらモニターテレビで2回戦第2試合を見てるんだが、さっきの元ゴクのアンちゃんの相手はどうやら中国拳法らしい。体格的には元ゴクのアンちゃんが一回り以上大きいけれど、おかっぱ頭にめっちゃ鋭い目つきの中国拳法野郎は、無駄な筋肉は一切ついていない、そう、カマキリみたいなイメージの奴で、見た目だけはなかなかやりそうだ。
カアァァァァァアンッ!
いよいよゴングだ。お手並み拝見。
わあぁぁぁぁぁぁぁっ
歓声と供におかっぱカマキリがいきなりラッシュをかける。体格的に捕まったら分が悪いと踏んだのか、パンチ、手刀、裏拳とさまざまな角度からの蹴りを見舞うんだが、その一つ一つが速い速い!威力自体は大したこと無いけれど、目玉、人中、喉、鳩尾、金的、次々と上下に打ち分けて体の中心線の急所を攻めてくる。1回戦突破はやはり伊達じゃない。
元ゴクは防戦一方。まだ有効打はないが、一発でもヒットしたら形勢はガラっと変わるだろう。おいおいアンちゃん、でかい口叩いといて、この流れは拙いんじゃないのかい。おかっぱカマキリのラッシュは1分近く続いている。しかしだ。なぜか元ゴクには妙な余裕がある。それどころかおかっぱカマキリの攻撃の手が目立って緩んできた。
(情けねえなぁ、ガス欠にゃまだ随分と早いよ。
鍛え方が足んねえんじゃないのかい?)
と俺様が思ったその時だった。攻めていたはずのおかっぱカマキリの拳と足の甲から鮮血がほとばしった。元ゴクがにやりと笑う。
「き、貴様汚ねえぞっ!
う、腕に何か仕込んであるだろう?」
おかっぱカマキリが甲高い声で叫んだ。元ゴクはニヤニヤ笑いながら両の手のひらを開いたまま半袖の両腕を上げて見せたけれど、そこには何の凶器も見当たらない。
「く、くそう。
きえええええぇええぃっ」
虚を衝いたおかっぱカマキリが奇声を発して飛び上がると、乾坤一擲、空中から強烈な蹴りを繰り出した。無防備だった元ゴクがそれを慌てて左手1本、上腕部で受けようとするが、アホか、左手1本じゃ腕ごと持ってかれちまうだろうよ。文句つけられたからって、一瞬でも気を抜いちまったてめえが甘かったな。
ぐしゃっ
「うぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁ・・・」
俺様は我が目を疑った。悲鳴を上げてうずくまったのは、おかっぱカマキリの方だった。しかも、完全に脛が叩き折られて爪先があり得ない方向を向いちまっている。こいつは勝負ありだ。
カンカンカンカンカン・・・
元ゴクの勝利を告げるゴングが乱打された。さっき見た元ゴクの拳は、確かに鍛えられていてゴツゴツだったけれど、上腕部がここまで鍛えられているなんてことがあるんだろうか。元ゴクが拳から上腕辺りを撫してカメラの先の俺様に見せつけた。
「おい、次に当たるプロレスオタク、よく聞いとけよ。
俺はなぁ、獄真の道場でちいとばかり強すぎちまったらしくてな、
馬鹿な先輩らのやっかみからとんだ虐めにあっちまったんだよ。
11人に囲まれて、殴る蹴るの集団リンチ・・・。
拳から二の腕まで、両腕とも粉砕骨折って憂き目に遭ったのよ。
悔しくってなぁ、ぼろぼろ涙が出ちまったよ。
で、俺は入院中の病院のベッドで毎日、
奴らに復讐することばかりずっと考えていた。
しかし、相手は有段者11人だ。
ところが俺は診察中のある日、とんでもねえ秘策を思いついたんだ。
新宿6丁目の有名なお医者のセンセイに協力を願ってな、
粉砕しちまった両腕の骨の補強用のプレートに、
あの奇跡の超合金をた〜っぷりと使ってもらったという訳だ。
ダイヤモンドより硬いって言われてる超合金ニューZをな。
先輩だけじゃなく、師範を含めて道場の1人残らずぶっ潰しちまって、
本部から破門になっちまったが、悔いなんかねえよ。
もうあそこにゃ俺が教わることは何もねえからな。
そう、俺こそが生ける凶器、俺こそが真の一撃必殺。
俺こそがリアル獄真会館だぁ!」
【To be continued.】
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