俺様とマリア volume.33 笑うウェアウルフ
新宿最凶トーナメント1回戦の残り試合が進んでいく。流石に敵ながら神龍のお見立ては大したもんで、現役ムエタイランカー対合気道の達人や、プロレスラー対自称最凶ヤンキーなんていう、とんでもない組合せの闘いが、次々と鉄格子の中で繰り広げられていく。招待客はそのあり得ない対戦に熱狂して、歓声が途切れる間もない。
しかしだ。エデォのおっちゃんとの特訓でリニューアルしたスーパーサイヤ人並みになった俺様に言わせりゃ、どれもこれも間抜けな子ども同士の喧嘩程度に映っちまう。恐らく、もう花ちゃんさえも超越しちまった俺様を満足させてくれる闘いは、もしかしたらウェアウルフ以外には無いのかも知れない。俺様はマリアを救い出す騎士(ナイト)の顔をした俺様の裏側に、ウェアウルフの出現を待ち望んでいる戦士(ファイター)としての顔があることを密かに認めていた。
1回戦の残り試合もあと2つとなって、ちょうど7試合目の開始のゴングが鳴ろうとした頃、秒殺に備えてだろう、係の姉ちゃんが俺様の控え室のドアをノックした。
「そろそろ2回戦の準備をお願いします。
どうぞリングサイドへ」
「ああ、わかったよ」
俺様がノックの音に振り向いて、リングのモニターから眼を離したその瞬間、
カアァァァァンッ
ううおおおぉぉぉぉぉぉぉぉ・・・
ゴングの音と観客のどよめき、それがまさに同時に起こって、鉄格子のリングに何かが起こったことを告げた。慌ててモニターを振り返った俺様の眼に飛び込んだのは、カッと見開いた眼に狂気を湛えた戦闘服姿の男のどアップ。男は舌なめずりをしながら、スタンディングの体勢のまま、背後からチョークスリーパーで相手の頚動脈と気管を締め上げている。こいつが噂の優勝候補、どっかの国の特殊部隊野郎か。
(でも流石だぜ。こりゃあ秒殺だな)
俺様だけじゃなく誰もがそう思っただろう。ところが、控え室を出ようとした俺様が、モニターから眼を離そうとした瞬間、背筋が凍るような例の殺気がまた俺様を襲った。おいおい、この殺気はモニターを通して発せられてるっていうのかい?ってことは、このコマンドサンボの特殊部隊野郎が、ウェアウルフ?まさか、そんな訳ねえだろうよ。狼がコマンドサンボなんて習うわけない、そう思うんだが、なぜかモニターから眼を離すことが出来ねえ。なぜだろう?
その時だった!チョークスリーパーを仕掛けられて、落ちそうになっているはずの長髪の男がニヤリと笑ったんだ。特殊部隊野郎の狂気に満ちた残忍な笑いとは、根本的な何か、何かが全く違っている笑いだった。そして次の瞬間、
「ぎゃああああぁぁぁっぁあぁ・・・」
悲鳴を上げたのは、絞め上げていたはずの特殊部隊野郎の方だった。そして俺様はその時、その長髪の男がウェアウルフだと確信した。チョークスリーパーからやすやすと脱出した男は、一転無表情のまま、血塗れの口から頬張っていた何かをぺっと吐き出した。マットのカクテルライトに照らし出されたそれは、特殊部隊野郎の二の腕を綺麗に噛み切った肉の塊だった。
「うぐぐぐ・・・」
動脈辺りの肉を削ぎ取られて、特殊部隊野郎の腕から鮮血がピューピュー噴き出している。ウェアウルフらしき男はまさにとどめを刺さんと低く身構え始めたんだが、腕を抱えて呆然としている特殊部隊野郎は、狼に睨まれた兎みてえにびびりまくっちまって、身動きひとつできやしねえ。
特別席から身を乗り出して神龍が叫んだ。
「おい、早くギブアップしねえと、てめえマジ殺られちまうぞぉ!
ゴングが鳴んなきゃ、こいつは誰も止められねえんだ。
早くギブアップしろってんだよ、この馬鹿野郎がぁっ!」
しかし、神龍の忠告は一瞬遅かった。身を躍らせたウェアウルフが次に狙ったのは両眼だった。まさに一瞬で間を詰めたウェアウルフの右手の爪は、正確に特殊部隊野郎の両眼の光を奪った。逃げられなくしておいて、とどめをさそうって腹か・・・
「HE… HELP ME」
凍りついたように静まり返った観客席に、ゴングの音色が虚しく響いた。
【To be continued.】
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