俺様とマリア volume.29 開幕!新宿最強決定トーナメント
新宿地下闘技場。東京都庁を始めとして西新宿に屹立する高層ビルの群れ。その中でも知らない者はいないと言っても良いほど超有名な、とあるビルの地下6階に、なんとこの闘技場は存在している。但し、ビルの正面玄関のエレベーターホールには「B6」という表示などは何処にもない。ごくごく限られた新宿のVIP級の者たちだけが年に数度だけ招かれ、ビルの外部の某所に隠されている専用エレベーターを利用して降り立つことができるという、地図にも電話帳にも載っていない、まさにロスト・コロシアム。
その天空に向かう摩天楼をビジネススペースとする数千人が「陽」の住人であるとすれば、その真反対側、闇に向かう地下深くには、大都会新宿のデッドスペースとでも言うべき空間があり、「陰」の住人たちはそこにひっそり集っていたのである。しかし、「陰」の世界の住人たちは、けっしてひ弱な存在ではない。いや、むしろ暗闇の中を己の欲望のためにギラギラと逞しく生きる人間たちであった。
闘技場の四角いリングを見下ろすようにして、神龍から招待された新宿の顔役たちおよそ500名は、ふかふかのソファーに身を埋め、高級な果実酒らを片手にトーナメントの開会を今や遅しと待ち構えている。ここに招かれているのは、右肩上がり、今の新宿の真の実力者。そのベスト500と言っても過言ではなかった。親の七光りも、学歴だけのただの頭でっかちも、法さえも入り込めない。自らの力だけで勝ち得た、旬の新宿の顔役たち。主催者の神龍を初めとして、ここに居ること自体が成り上がった者のステータスであり、更に先の大きな夢、東京、関東、日本制覇へと繋がる階段の途中、そう、こここそは、現代の戦乱を生きる武士(もののふ)たちの夢の踊り場とでも言っておこううか?
「コンコン」
新宿最強決定トーナメントの16ある選手控室のドアが一斉にノックされた。
「Eノイズ様、トーナメント1回戦の抽選のお時間です」
マリアの夢を見て転寝していた俺様を、事務的な女の声が現実の世界に引きずり戻す。
「ち・・っくしょう。
いいとこだったってのに、邪魔しやがって!
ふぁ、ふぁ〜〜ぁ」
大欠伸をした俺様は、綺麗な姉ちゃんに連れられて闘技場までの暗い通路を静かに歩く。それにつれて歓声がだんだんと大きくなっていくが、俺様の心はなぜか凪の海のように穏やかだった。
(エディのおっちゃんとやるべきことは全てやった。
あとは目の前の敵をぶっ飛ばすのみ)
パーッと視界が広がった。俺様は1番最後の入場者だったらしく、ほかの15人は、ゆっくりと歩いてきた俺様を鋭い眼光で値踏みするように見てやがる。肩からはそれぞれネーム入りのたすきが掛けられているが、いずれも一癖も二癖もありそうな奴らだ。この中のどれかが「ウェアウルフ」って訳なんだろうが、神龍がご丁寧にタネを明かしてくれるはずも無く、どいつがウェアウルフかは全くわかりゃしない。
「これから新宿最強決定トーナメント、
1回戦8試合の抽選を始めます」
16人全員が一歩前に出るように促され、袋に入れられた16本のロープのうち、それぞれがその端1本ずつを掴んだ。
「全員に行き渡りましたね。
それでは皆様、一斉に引いてください!」
ザシャアアァァァッ!
リングアナの声に16人がロープを引っ張ると、16本と思っていたロープは実は8本で、そのロープの先を辿っていくと、俺様の1回戦の対戦相手が、舌なめずりをしながら仁王立ちしていた。たすきには「新宿裏拳闘ヘビー級チャンピオン デュラン・黒川」と書かれていた。
【To be continued.】
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