俺様とマリア volume.28 戦慄のパートナー
公園入口を入って暫く進むと芝生の広がる広場に出る。ここ、ここ。ここで、花ちゃんたちと花見やったんだよ。
「お、おっちゃん、地獄の特訓場って、ここかい?
ここ新宿中央公園、だよな?」
「ああ、そうだ。
間違いねえ、新宿中央公園だ」
「い、いや、差別するわけじゃねえけどさ。
ここって、ホームレスの人らのメッカみてえなとこじゃん?
その・・・、俺様のスパーリングパートナーってのは、
もしかしてレゲエのおっさんとかかい?
もしそうだったとしたらさ、悪いけど、
風呂に入ってからにしてもらいてえんだけどな・・・」
俺様は取り立てて綺麗好きという訳じゃねえ。と言うか、どちらかと言えば風呂嫌いに属する方に違いない。しかし、そんな俺様だって、何ヶ月も風呂に入ってねえ野郎と組んずほぐれつってのは、ちょっと勘弁だよな。
「ふふふ、心配する必要はねえよ。
確かに野郎たちは何ヶ月どころか産まれてこの方、
風呂に入ったことなんか1度だってねえだろうが、
これがまあ、案外綺麗なもんなんだよ」
「う、産まれてから1度も風呂に入ったことがねえだって?
おっちゃん、冗談にもほどがあるぜ。
俺様は真面目な話をしてんだからな」
俺様の言葉に耳を貸さずに、エディのおっちゃんは悪戯っぽく笑いながら、なおも奥に進んで行く。枝振りのいい桜の木を見つけたおっちゃんが木の幹をポンポンと叩きながらこう言った。
「この枝だったらサンドバッグだって充分吊れるし、
ウレタンを巻けばタックルの練習だってできる。
どうだい、大したもんだろ?」
なぁんだ、俺様の練習相手ってのは桜の木かい。あんまり驚かすんじゃねえよ。そりゃあ確かに、桜の木は風呂にゃ入らねえよな。
「おっちゃん、俺様の練習相手ってのは、
こいつ、この桜の木のことかい?
確かに、いい枝ぶりだけどさ、
この程度の木だったら、わざわざ中央公園でなくったって、
他にいくらでもあるんじゃねえか?」
エディのおっちゃんはにやりと笑ってから、外人みたいに「NO NO」とばかりに人差し指を左右に振ってみせた。でも残念ながらその仕草は、まるで似合ってない。
「兄ちゃん、木は木でしかねえよ。
あんまり勿体つけるのもなんだし、
じゃあ、そろそろ呼んでやるとすっか・・」
おっちゃんは、さっき左右に振っていた人差し指と親指で丸を作ったと思ったら、口にくわえて大きく息を吹き出した。
ぴゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぃぃぃぃぃぃぃぃ
都会のど真ん中静かな公園の午後、早春の透明な空に指笛が沁み込んでいく。
ぴゅうぅぅぅぅぅぅぅぅぅぃぃぃぃぃぃぃぃ
俺様はふと、ガキの頃田舎の空で輪を描いて飛んでいたトンビのことをのんびりと想い出していた。その時だった。
シャウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
俺様の背後を何者かが猛スピードで駆け抜けていった。
シャウウウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥッ!
い、いや、複数だ。もう1人いるっ!
「くっ!」
振り向いたが、スピードに追いつけない。
タッ!タタッ!タッ!
その黒い影が、俺様の背後、視界の外でステップを踏んで鋭角的にターンをしたようだ。しかし、驚いたことに反射神経にはかなりの自信を持ってる俺様が、音と気を頼りにその実体を捉えようとしても、常に先手を取られて全く追いつけやしない。
「く、くそぅ!」
俺様は完全にバックを取られたままだった。な、なんてすさまじい速さなんだ。とても人間業とは思えねえ。
「兄ちゃん、どうだい?
こいつらのスピードは・・・
この動きについてこれなければ、
ウェアウルフの動きになんか、到底ついてけやしないぜ」
「・・・・・・・・」
「よしよし、もういいだろう。
ご挨拶は終わりだよ」
声も出せずにうな垂れていた俺様が振り返って見たのは、エディのおっちゃんにじゃれついている2頭の野犬たちだった。
「こ、こいつらが、俺様のスパーリングパートナー・・・」
【To be continued.】
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