俺様とマリア volume.25 その名は、ウェアウルフ
吉野家新宿4丁目店のカウンターで、俺様とエディのおっちゃんは、はっきり言って浮いていた。学生やサラリーマンの集った店内は、忙しさの中にも和やかさも漂っている。そんな中、危険な香りをぷんぷんさせている俺様と、人の良さを全身から滲み出しているエディのおっちゃんのペアは、完全にミスマッチ以外の何ものでもない。誰がどう見たところで、俺様が「弱肉強食」の四文字熟語よろしく、大都会新宿の常識をお上りさんに身をもって教育しているような、そんな風に見ていたに違いないんだが・・・
「どうだい、兄ちゃん。
俺の見立てに、そう違いはねえだろ?」
俺様ときたら、おっちゃんの眼力と得体の知れない迫力に完全に気圧されちまって、まさにタジタジだった。
「ああ・・・」
やっとのことで平静を装って返事をしたものの、声が裏返っちまった。エディのおっちゃんは、それを見逃さない。にやりと笑うと服の上から俺様の骨格、筋肉を透視して、まるで値踏みするような目つきでこう言いやがった。
「その筋肉のつき方から推理すると、
兄ちゃんのフェバリットホールド、すなわち必殺技は・・・・」
「俺様の必殺技?」
「そうだなぁ。
バーディカル・スープレックス?
いや、そんなちんけな技じゃねえ。
垂直落下式のブレーンバスター?
いや、違う、そんなんじゃまだまだだ。
そ、そうだ、あれだ!
あの幻とも言われているあの技だ。
故橋本真也氏以外の使い手は、
もう現れないかもしれないと言われてる伝説の荒技、
垂直落下式 D・D・T!」
(な、なんて奴なんだ、このエディのおっちゃんってのは。あの元幕内力士剛力山を仕留めた俺様の必殺技まで、こんなちょっとの間で見抜いちまうなんて・・・)
動揺を隠せない俺様の顔をおっちゃんは得意げに覗き込んだ。
「どうだい、図星だろ?
垂直落下式のDDTかぁ。
体重のある奴なら相当な破壊力だろうなあ。
下が地面や床、今回みたいな固いリングでの勝負なら、
恐らく一撃必殺と言っていいだろうな。
しかし、奴には・・・
い、いや、やめとこう」
「あぁ?なんだとこら?」
おっちゃんの眼力にびびりながらも、それまでの解説にちょっと気を良くしてた俺様だったが、今の「しかし」は、どうにも気にいらねえ。しかも、その先の「奴には・・・」ってのが、気になって仕方ねえじゃねえか。
「おい、しかし何だってんだよ!
それに奴ってのは誰のことなんだよ、こら!」
俺様がいきなり凄んだものだから、それまで和やかだった吉野家の空気がいっぺんで凍り付いちまった。バイトの兄ちゃんがおろおろしながら店長らしきおっさんに目配せしてるんだけど、おっさんは気づかない振りを決め込んでやがる。
「す、すまねえ。
兄ちゃんが気を悪くしそうだったからよ・・・」
「俺も悪かったよ、カチンときちまってさ。
大丈夫だよ、もう吼えたりしねえよ」
おっちゃんはひどく言いにくそうに、俯いて話し始めた。
「そうかい?じゃあ言うがなぁ。
普通の人間になら、一撃必殺の垂直落下式DDTだが、
奴には、多分、通用しねえだろうって思うんだ・・・」
「おっちゃんよぉ。
俺様の技を見てもいねえくせに、フカシこいてんじゃねえぞ。
大体、その奴ってのは何処のどいつだよ。
あんたがトレーナーを務める奴ってのは、
神龍が呼んだっていう特殊部隊野郎か?」
俯いていたおっちゃんの眼が、怪しく光った。
「今度のトーナメントの出場者に違いは無いが、
俺がコーチングするのは特殊部隊の出身者じゃねえ。
その程度の奴だったら、俺がわざわざ来るまでもねえよ」
マジかよ。特殊部隊野郎を「その程度」扱いかい。
「これまでの奴ときたら、リング以外でも対峙した相手を、
誰彼構わず片っ端から八つ裂きにしちまうんだ。
だから俺は、技やコンディショニングなんかじゃなく、
奴に人間としてのルールを教え込む為に神龍さんに雇われたんだよ。
今までの誰一人として手なずけられなかった男。
それもそのはずさ・・・
奴は、南アルプスの山中で発見され、
ハンター数名を惨殺した後ようやく捕獲された半獣半人の真の狼男、
その名も獣人ウェアウルフ!」
【To be continued.】
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