俺様とマリア volume.21 新宿ゴールデン街「GBH」
新宿最強決定トーナメントに俺様のことを招待したからには、それまでの間に神龍の野郎が俺様を消そうとするなんてことはあり得ねえ。ということは、副賞にされちまったマリアだって、当然身の安全は保障されているに違いねえ。そう踏んだ俺様は次の日の晩、久し振りに夜の新宿の街並みを歩いてみた。こんな時はこんな状況を楽しんじまわないと、奴への怒りで脳味噌が沸騰しちまいそうだぜ。
大薮センセイの病院のある新宿6丁目から細い路地伝いに靖国通りに出て、それを右に曲がると大きな交差点に出る。靖国通りを挟んでトイ面が、かの新宿2丁目。新宿地下街の東のはずれがここに当たる。
交差点をそのまま歌舞伎町方面に渡ると、酉の市で有名な花園神社があって、入って境内の左、階段の脇を抜けると今日の目的地、「新宿ゴールデン街」だ。
火事になったらホントあっという間に全焼しちまいそうな、バラックに毛の生えた築数十年の飲み屋が狭い路地にそれこそ寄り添うようにひしめき合っている。
俺様は、このいかがわしさとチープさ、危うさが大好きだ。だって、この街にはなぜか、俺様の好きなひた向きさと大らかさが絶妙なバランスで同居してやがるんだ。俺様みたいな食えないバンドマンや売れない小説家、絵描きに漫画家、夢見がちな編集者、果ては前衛舞踏家まで。このちっぽけな空間に溶け込んで生きてる奴らのなんと多いことか。でもそれは、決して負け犬のそれじゃあない。暗中模索、行き当たりばったりかもしれないけれど、しっかりとした彼らの誇りに根ざしているからこそ心地がいい。もしかしたらそれは、昔っからの本来の新宿の姿そのものなのかもしれない。ギラギラした歌舞伎町のその目と鼻の先に、こんな異空間が飄々と存在している。
さっきの病院のあった新宿6丁目もそうだけど、ここいらの1本の通りごとには、それぞれ目に見えない壁ならぬ衝立があるような気がしてきちまう。通りの1本ごとに表情や雰囲気が微妙に違うんだ。俺様はそんな衝立をすり抜けるようにして、行きつけのショットバー「GBH」のカウンターに腰をおろした。
「よぉ、Eノイズ、久し振りだなぁ。
いやしかし、今回は散々だったなぁ。
でもちょっと相手が悪いや。
今売り出し中の神龍ファミリーじゃあなぁ」
ゴリラみてえな浅黒い顔に金髪のマスターが、首にかけた太いチェーンをジャラジャラ言わせて、他人様の不幸を肴に笑顔で迎えてくれた。ここのマスターは見かけによらず、新宿の情報通としてちょっとは名が知られているんだ。
「何言ってやがる。
神龍なんざ、ぶっ飛ばしてやるさ。
それよっか俺的には、花ちゃんの方がきつかったよ」
「聞いたよ、それも。
御苑でやったんだって?
ステゴロ花が復活したって、みんな騒いでるよ。
しかし、命に別状がなくてよかったなぁ。
これでお前と花田とは・・?」
「3回目の引き分けだよ」
「お前ら、ホントいい年してるってのに、相変わらず馬鹿だなあ。
がっはっはっはっ、ほらよ、いつものギムレット、大盛」
カクテルにしちゃあデカ過ぎるぐらいのグラスにギムレットをなみなみと注いで俺様に手渡すと、マスターは少し声のトーンを落とした。
「こっからはマジな話なんだが・・・
今度の新宿最強決定トーナメント、
お前さん、かなりハードな闘いになりそうだぜ」
「と、言うと?」
「今回は、以前にも増して、
とんでもねえ奴らがエントリーしてやがるんだよ」
俺様は意外だった。
「へえ、知らなかったよ。
トーナメントって都市伝説じゃなくて、過去にも本当にあったんだ」
「当たりめえだよ。
今から3年前と7年前の2回。
もちろん主催は神龍ファミリーじゃねえがな。
時の新宿の覇者がその威信をかけて開催する、
言わば、権力者のステータスみたいなもんさ。
神龍ファミリーは過去最大の規模での開催を画策してるんだ。
エントリー数はいつもの倍だから、試合数が半端じゃねえ・・・」
「格闘技のプロでも出てくるってのかい?」
「ボクサーやキック、総合出身は当たり前だけど、
これが驚いたことに、どっかの国の特殊部隊までいやがるんだ。
格闘技どころの話じゃねえよ。
奴ら軍人って、言い換えりゃ殺しのプロだぜ。
そんなの相手に、決勝入れて1日で4試合もだぜ・・・」
「ふーん」
「ふーんって、おいおい。
そんあ余裕ぶっこいて大丈夫かよ・・・」
「なあ、マスター。
何で今回エントリー数が多いか教えてやろうか?」
「?」
「みんな、マリアが目当てなのさ。
そう、そんだけ俺様のマリアが魅力的なんだよ。
そんな女神様みてえなマリアに惚れられちまってる俺様が、
マリアの目の前で、負けられるはずねえじゃねえかよ」
【To be continued.】
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