俺様とマリア volume.19 神龍からの招待状
「花ちゃん、傷は浅手だ、死ぬんじゃねえぞ!
花ちゃん、花ちゃん、花ちゃん、花ちゃん」
医者までの道中、怪訝そうにバックミラーをちらちら見るタクシーの中、俺様は血まみれの花ちゃんの手を握り締めて花ちゃんの名前を呼び続けた。花ちゃんは激痛に顔を歪めながら、途切れそうになる意識の中で「E坊、ごめんな」と、何度も繰り返していた。
新宿中の訳ありの患者が集まる大薮センセイ。
センセイは随分と前に、「ちょっとした事情」とやらで医師免許を剥奪されちまったらしいんだが、本人曰く、ある朝「神様からの天命を受けた」とかで、以来新宿のヤバイ連中の人命を救い続けているそうだ。
センセイによると神様の天命は法律より尊いそうで、無免許なんてのは命を救う使命からすれば倫理上何ら問題もないと豪語している。ただその割にゃ人の足元見やがって相当ふっかけてるんだけど、随分とがめつい神様もいるもんだぜ。
そんなセンセイの診察室兼手術室は、バブル期に地上げに失敗した一角。昭和のレトロな匂いがぷんぷんする新宿6丁目のエレベーターもないような古びたビルの1室にある。
俺様の肩に担がれてきた花ちゃんを診て、物事に動じないあのセンセイがびっくりしてた。でも、考えてみりゃ驚くはずだ。いくら口径が小さいからって、2発も腹に食らった野郎が、噴出す血を手で抑えながら、4階まで自分の足で階段昇って来るとはね。
更にセンセイを驚かせたのは・・・
「何十年も医者をやっとるが、こんなの初めてじゃよ。
程よくついた脂肪と、とんでもなく強固な鎧みたいな腹筋に守られて
信じられんが内臓は、ほとんど損傷がないんじゃ。
当然これじゃ、命に別状があるはずないわい。
ま、まさに、超人じゃな・・・」
やっぱり花ちゃんだぜ、何にしてもよかった。信じちゃいたけど、これで一安心だ。花ちゃんは、超人かぁ。でも、その超人と引き分けた俺様だって、いい線いってるってことだよな。
弾丸を摘出するオペが終わった。花ちゃんは、麻酔で眠っている。
いろんなことがあって疲れたんだろう。マリアも俺様にもたれかかってうつらうつらしてる。
と、何かを思い出したという具合に、センセイが頭をポンと叩いて俺様に言った。
「あっ、そうそう、Eノイズだったな。
お前さんに預かりもんがあるんじゃ。
え〜と、どこにやったかの・・・」
センセイは書類が山積になった机をゴソゴソひっくり返して探し物を始めた。
「えっ?俺様に?誰からだい?」
「お前さん最近マフィアともめとるらしいじゃないか。
そのお相手、神龍のファミリーからじゃよ。
おぉ、あったあった!これじゃこれじゃ・・」
神龍という言葉を聞いてマリアが、それまで閉じていた眼をぱっと見開いた。
「な、なんで俺様がここに来ることを知ってやがるんだ・・・」
「来たのは昼過ぎじゃったかのぉ。
エライベッピンの金髪の姉ちゃんが、
今日の夕方、必ずお前さんらが来るからってな」
「リ、リンダの奴に違いねえ!」
「そうそう、そのリンダ、神龍の秘書じゃよ。
お前さんか、1丁目の屋台「当たり矢」の花田。
どっちが大けがになるか分からんが、
必ず揃ってここに来るからって、こいつを・・・」
「くそっ!なめやがってっ!」
俺様はセンセイから包みをひったくると、高級そうな透かしの入った封筒を引き千切った。封筒の中から、やはり高級そうな厚手のカードが現れ、俺様はそれを開くと貪るように文面を眼で追った。
「な、何だって?招待状?調子狂うなぁ・・・
神龍ファミリー主催 新宿最強決定トーナメントだと?
Emotional-Noise殿ぉ?
チッ!おいおい、殿ときやがったぜ。
貴殿は、栄誉ある本大会にエントリーされ・・・
優勝賞金1億円・・・
副賞に・・・、な、なんだと?ふざけんじゃねえっ!」
バシッ!
「イ、E坊、どうしたの?」
怒りにまかせて俺様が床に投げつけちまった招待状を、マリアが拾い上げちまった。
「マ、マリア、駄目だ!
そ、それを読んじゃいけねえ!」
まずった、俺様の静止が一瞬遅かった。
「ひっ!」
「マリア・・・」
マリアの手を離れ再び床に落ちた「新宿最強決定トーナメント」の招待状には、あろうことか副賞として、「マリア」の3文字が印字されていた。顔面蒼白のマリアは恐怖でガタガタっと震えると、気を失いその場に崩れ落ちてしまった。
【To be continued.】
☆アルファポリスに挑戦☆
アルファポリスさんのランキング「Webコンテンツ」に挑戦します。「うふふ」とか「ほろっ」とか「なるほど」と感じたら、押してくださいね。