俺様とマリア volume.17 死闘の果てに
俺様と花ちゃんの距離は、約3メートル。俺様は上に乗られてずっとタコ殴りにされてたし、花ちゃんだって殴りっぱなし。普通なら誰だってちょっとは体力の回復を図りたいはずだ。でも、極限までヒートしちまった俺様たちは、もはや文明の中に生きる人間じゃねえ。まるでヒトから闘う獣(けもの)にメタモルフォーゼしちまってるみたいなんだよ。DNAの中に潜んでいる原始の熱い魂が、戦術や戦略、技術を凌駕して、眼前に立ちはだかるもう一匹の獣を倒せと命じている。
俺様と花ちゃん、2人はどちらが誘ったわけじゃなく、本能のまま突っ込んでいった。雄叫び、いや、獣たちの咆哮と言った方が近いかも知れない。魂の波長がシンクロした。
「うらぁぁぁぁぁっ!」
「だっしゃあぁぁぁぁっ!」
ガコツ! バキャッ!
俺様の渾身の右ストレートと、カウンターを取ろうとした花ちゃんの左が凄い勢いで交錯して、全く同時にお互いの顔面にめり込んだ。クロスカウンターッ!
「ぐはっ」
「がはっ」
まるでスパークッ!火花を散らし弾け合った二人の熱い拳は、何の躊躇も無く振り抜かれて、お互いの体を吹き飛ばした。ふたつの影は真っ赤な血潮の華をその身にまとわせて宙に舞った。
ドサササァァ・・
2メートル以上吹っ飛ばされた俺様と花ちゃんだったが、地面に叩きつけられても2人はすぐに立ち上がる。
(だ、大丈夫。まだ意識ははっきりしてる・・・)
俺様はダメージを瞬時にチェックして、次の攻撃に備えた。また2人の魂のHPゲージがどんどん満たされていく。そして、リミッターを越えた瞬間。第2回目の正面衝突!
「うおりゃあぁぁぁぁっ!」
「どっせえぇぇぇぇぃっ!」
ガッガシャアアァァァッ!
凄えよ、2人の思考を超えた感覚が完全に一致した。今度は互いにレンジの長めの右フックの打ち合いだ。当たった瞬間、首が捻じ切れちまうような衝撃が襲って、俺様と花ちゃんはこれまた同時に、地面に右膝をついた。
(こ、こいつは効いたぜ、脳が揺れてやがる。
しかし、もう1発は打てる・・・)
そう思った片膝立ちのままの俺様は、右を向かされちまった首を正面に戻すように回転させながら、右ストレートを花ちゃんの顔面に・・・
ゴ、ゴガッ ドサァッ
ははは、やっぱり同じだ。同じ匂いがするんだ。花ちゃんの右ストレートも俺様にも突き刺さって、今度は2人とも仰向けにひっくり返っちまった。御苑の広い空が青い。
(こいつはやべえ。
もう立てねえかもしんねえ。
花ちゃんとは今まで2引分けだったけど、ついに負けちまうのか。
でも、気持ちのいい喧嘩だったよ・・・)
俺様がそんなことを考えていたら、やっぱりひっくり返ったままの花ちゃんが言った。
「イ、E坊、気ぃ失ってねえか?」
「だ、大丈夫、なんとか意識は繋がってる。
でも、へへへ、そろそろやばそうだよ」
俺様の台詞に花ちゃんが苦笑して、こう返した。
「ははは、おいらもさ。
こっから立ち上がってもう一勝負は、正直しんどいな。
でも、総合やってるより、こっちの方が何倍も楽しいな・・・」
おいおい、花ちゃんったら。
洒落てる訳じゃないけど、さっきまでのギラギラした殺気はもうなくって、いつもの優しくって人懐っこい花ちゃんに戻ってるよ。はははは、花ちゃんはこの闘いを通して俺様とマリアの真実に気づいてくれたんだ。きっとそうだ。そうに違いない。
「E坊、今回もまた、引分けってことにしとかねえか・・・」
「花ちゃん・・・」
もともと俺様には、花ちゃんと闘う理由なんてないんだ。俺様は嬉しさのあまりだろう、がばっと立ち上がってみせると、拳の血をごしごしとシャツで拭って、ゆっくりと立ち上がった花ちゃんに向かって右手を差し出した。花ちゃんも照れ臭そうに笑って右手を差し出した、その時だった。
ターン ターン
乾いた音が二発、俺様の背後に響いた。こ、この音は。護身用の口径の小さな、銃の音・・・
「リ、リ、リンダ・・・・」
握手をしようと手を差し出した花ちゃんの手が、俺様の右手をすり抜けて、眼を見開いたまま、まるでスローモーションのように、静かに倒れていった・・・
【To be continued.】
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