俺様とマリア volume.15 進化した豪腕
一方はスタンド、一方はグラウンド、所謂「猪木アリ状態」で対峙する俺様たち2人。俺様のいきなりの右ローを受けて左膝裏をさする花ちゃんは、俺様を見下すように反時計回りに弧を描きながら言った。
「E坊、ざまぁねえなぁ。
アントニオ猪木を気取ってるつもりだろうが、
お前さんにゃ、とても役不足だよ。
それじゃあ、誰がどう見たって
おいらのパンチにびびって腰抜かしてるみたいだぜ」
へんっ、花ちゃん、強がってるんじゃねえよ。あんた、昔っからそうだ。その強烈なパンチに頼り過ぎてるが故にグラウンドは相変わらず「苦手」みてえだな。まあ、ほとんどの相手にほぼワンパンで勝ってきたんだから、そいつもしょうがねえだろうが、俺様を挑発して立たせようったって、そうは問屋が卸さねえよ。
「色男さんよ。
そっちこそ愛しのリンダと昨日は朝まで一緒に
グラウンドテクニックを磨いたんだろ?
へへへ、どんだけ上達したか、俺様が試してやるぜ」
さすが俺様、我ながらナイスな挑発だ。花ちゃんの顔つきがサッと変わって、更にゴンタ顔に変貌していく。
「なんだと?コラァ」
よ〜しよし、乗ってこい。実力に差がない対戦相手の場合、自分の得意な土俵で対戦すること。相手の冷静さを失わせること。この2つが勝利の鉄則だ。もう一丁駄目押しの挑発で、何としてでも得意のグラウンドに引きずり込んでやるぜ。
「どうした?
パンチと女といちゃつくしかしか能がねえ腕力ゴリラ。
俺様が寝転んじまったら、手も足も出ねえのかい?」
そうら、乗ってきた、・・と思いきや、花ちゃんは・・・
花ちゃんは挑発に乗らずに、ちょっと小首を傾げて、なぜか余裕の薄笑いを浮かべている。
「クックックッ・・・
E坊、友だちってのはさ、
特に昔っからの古い友だちってのは、
相手がずっと昔のまんまだと思いがちなんだが、
お前さんが随分と優しい男に変わっちまったように、
おいらだってちょっとは変わってるつもりだぜ・・・」
その言葉が終わるか終わらないかのうちに
ガッ! ザザザッ!
花ちゃんが、空中から、踊りかかってきた!
「お、おっとぉ!」
ガスッ! ズザザッ! ブウゥゥゥン!
ジャンプしてからの鳩尾(みぞおち)狙いのフットスタンプを、エビになってぎりぎりでかわした俺様だったが、花ちゃんは着地後すぐさま反転すると、その回転の勢いのままに力任せのロングレンジのフック!
ピシュッ!
か、間一髪!鼻先かすめたぜ。しかし、上体を反らせてよけた俺様の腹の辺りが全くの無防備、お留守になっちまった。
「マウント、いただきっ!」
花ちゃんが左手を突き出しながら腹に覆いかぶさってくる。
「させるかっ!」
ガガガッ!
俺様は花ちゃんの突進を足で受け止めて、下の体勢のまま足で胴体を挟み込む。と同時に、花ちゃんの頭を両の拳ごと抱え込んで、体と体の間に隙間を作らせないようにした。そう、総合格闘技で言うところの「ガードポジション」の体勢だ。
「は、花ちゃん。
や、やるじゃ・・ねえか・・
ジムはジムでも、ボクシングじゃなくて総合かよ」
「4年前、カトさんに言われたんだよ、死んじまう前にな。
喧嘩じゃ行き着くとこは、どうせヤクザもんがいいとこだ。
屋台をくれてやるから、それで金稼いで格闘技やれって。
それで本当の男になれってよ」
そうか、そうだったのか。それでステゴロは封印してたって訳か。しかし、だとしたら花ちゃんには、もう穴は無いってことか。でも上体が密着したこの体勢なら、顔面へのパンチはまず出せないはずだ。暫くは膠着状態が続く。痺れを切らした花ちゃんが、体勢を崩してでも強引に打ってきた時が勝機だ。下から三角締め、狙ってやる。
「E坊、甘いな。
おいらにゃ、そんなもの通用しねえよ。
ふんっ、どうだっ!」
そう言うと花ちゃんは、僅かな隙間に左手を捻じ込んできて、まるで自分の体に付着した邪魔な何かをひっぺがすように、必死にしがみつく俺様の上体を左手1本で「メリメリ・・」と自分の体から剥いでゆく。額の辺りを強烈な握力で掴まれた上に押されて、密着していた体と体に少しずつ空間が出来て、パンチが入り込むスペースが・・・、生まれた。
「そらっ!」
ゴッ!
まず、左こめかみに小さな右フックを被弾。
(花ちゃん、相変わらずすげえ力だ。
しかもこりゃあ総合をかなりやり込んでるなぁ。
まずいな、このままじゃ、ホントに何も出来ないままやられちゃうぜ)
そんなことを思っていたら、
メリメリメリ・・・ ゴガッ!
真正面から右ストレート一閃ッ!完全に体と体が切り離されて、俺様は慌てて両腕で顔面をブロックした。
ゴガッ! バキッ! ズゴッ! バキバキバキっ!
ガードの上からでも全くお構い無し。花ちゃんは無尽蔵のスタミナに物を言わせて、強烈な左右のパンチの雨を俺様に向けて降らせまくる。まさに土砂降り。いったいこの集中豪雨は、いつまで降り続くんだろう。
【To be continued.】
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