俺様とマリア volume.13 リンダの仕掛けた罠
「イ、E坊、どうしよう・・・」
俺様の右腕を掴むマリアの力がぎゅっと強くなった。でも、俺様も正直、どうしていいかわかりゃしない。だってそうだろ?真夏の水飴みたいにあんなにとろけちまってる花ちゃんに、「あんたが恋人だと思ってるリンダは実は神龍の秘書で、あんたは俺様とマリアを捕える為に利用されてるだけだ」なんて言うのかい?そ、そんなこと、俺様にゃとても言えやしねえよ。
い、いや、違う。こいつは何があっても言わなきゃならねえ。俺様とマリアのためだけじゃない。真実を伝えることが、花ちゃんのためでもあるんだ。そうだよ、それこそが真の友情ってもんじゃねえか。で、でもなぁ、花ちゃん、すげえショックだろうな・・・
頭が混乱しちまっておろおろする俺様に、いつの間にか腕を組んだ花ちゃんたちが近づいてきて、半分裏返っちまったような実に情けない声でこう言った。
「E坊、マリア、悪かったなぁ。
ちょいと待たせちまったかい?
紹介するよ、これがおいらの・・、てへへへへ・・・
こ、こ、こ、恋人のリンダだよ。
でへへへへへ・・・」
(花ちゃん、マジ熱出てんじゃない?顔、真っ赤だぜ。
それに汗までそんなにかいちまってさ。
そんなにリンダにイカれちまってるのかい?
や、やっぱり、俺様にゃ、言えねえや・・・
花ちゃんは、リンダに騙されてるだなんてよ・・・)
「E坊、そこの券売機で券買ってさ、早いとこ中に入ろうぜ」
はっとしたマリアが俺様の影に隠れながら、革ジャンの右袖の辺りをつつっと引っ張る。
(わ、分かってるよ。
御苑の中にゃ恐らく、エモノを手にした神龍の子分ご一同様が、
そこいら中の茂みの陰に身を隠して、
俺様とマリアのご来場をお待ち申し上げてやがるんだろう?
ほら、言うんだよ、花ちゃんに。罠だから入っちゃいけねえって。
うん、言わなきゃならねえんだ。
なんたって、俺様の大切なマリアと花ちゃん。
この2人の命にもかかわる一大事なんだからな。
で、でも・・・)
俺様の頭の中をいろんな思いが交錯している。
「ははぁん、E坊、カラッケツなのか?
わかったわかった。
誘ったのはおいらとリンダだ。
今日のデートは全部おいらがおごってやるよ」
(クソがぁっ、違えんだよ、花ちゃん。
ええいっ、ままよぉ!)
「は、花ちゃん、ちょっと待ってくれよ・・・」
俺様は尻のポケットから蛇革の財布を出そうとする花ちゃんを止めて、リンダの方に向き直った。
「リンダ、初めまして・・・、じゃねえよな。
マリアとはちょっとした馴染みらしいじゃねえか。
アンタのご主人には、さんざん世話になったなぁ。
俺様にピックでえぐられた右眼の具合は、どうだい?」
リンダと花ちゃんの顔色がさっと変わった。花ちゃんは目をまん丸にしたまま俺様とリンダの顔を見比べて、震える指で俺様を指さした。
「イ、E坊・・・
悪い冗談は、言いっこなしだぜ。
リンダが例の神龍のクソ野郎と?
そ、そりゃあ、なんかの間違いだろ?」
「い、いいや、花ちゃん・・・
悪いが冗談でも、間違いでもねえみたいなんだよ。
神龍に言い寄られていたマリアは、
リンダのこと、随分前から知ってるんだよ・・・」
「そ、そりゃ、他人の空似ってヤツだろうよ。
リンダに限って・・・
リンダに限って、そんなことはあり得ねえ!
な、なぁ、リンダ?
お前からも言ってやれよ。
悪い冗談はやめてくれって。
な、なぁ、リンダ・・・」
ついに俺様、言っちまったよ。さて、リンダはどう出るつもりだ?戦闘態勢に入りつつ逃走ルートを頭に描いていた俺様は、リンダを見て「やられた」と思った。
(な、なんだとぉ?
リ、リンダが、泣いてやがる。
アカデミー賞並みの演技力でメソメソと・・・
ちくしょう、こ、この女狐がぁ!)
「は、花ちゃん。
花ちゃんのお友達ったら、ひどいよ・・・
初めて会ったアタシに、なんでそんなこと言うの?
ひどいよ、あんまりだよ・・・」
花ちゃんの表情が、おでん屋を始める前の「ステゴロの花」と異名を取った、あの危険な表情に変わっていく。とてもさっきまでの鼻の下を伸ばしていた花ちゃんと同一人物とは思えねえ。
「E坊。
この後の返事次第によっちゃ、
おいらとお前はもう、友だちじゃなくなっちまうぞ。
覚悟して返答しろよ」
ちくしょう神龍め、流石だぜ。なるほどこういう風に絵を描きやがったか。自分の手を汚さずに、俺様たちを潰し合わせる気かい。相手が花ちゃんじゃ、ちょっとでも気を抜いたら、速攻でやられちまうぞ。でも、もう俺様だって後戻りはできねえ。いくら御託を並べたところで、こんだけ頭に血が上っちまった花ちゃんが、今更俺様の言うことを理解しようとするはずなんかねえ。だとしたら選択肢なんかねえんだ。ここはこの俺様の拳でわからせるしかねえんだ。
【To be continued.】
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