俺様とマリア volume.12 大木戸門外の変
広さ58.3ha(約18万坪)、周囲3.5kmにも及ぶ新宿御苑には、「新宿門」と「千駄ヶ谷門」、そして、今回の待ち合わせ場所「大木戸門」の都合3つの門がある。因みに入場料は、大人200円。神龍に追われて、着の身着のままで逃げ回る俺さまとマリアの財布にもやさしい入園料だ。
しかし、花ちゃんの彼女リンダも、なんだってこんな新宿御苑なんて場所に来たがったんだろうな。確かに、あと1カ月くらい後だったら、さぞかし桜も綺麗なんだろうけど、春がそこまで来てるとは言え、例年になく寒さの厳しい年の2月下旬じゃ、桜の蕾はおろか梅さえも見頃はまだ先って感じがする。しかも、待ち合わせ時間が午後3時だろ?御苑内の施設は4時にはみんな閉まっちまうし、4時半には全ての門で閉門になっちまうんだぜ。俺様の脳裏に打ち消したはずの疑念がまた、むくむくと頭をもたげてきやがる。確かに怪しいと言えば怪しい。
俺様はまたまた浮かびかけてる眉間の皺を気にしながらも、マリアと2人、約束の5分前に大木戸門脇の待ち合わせ場所に着いた。まだ花ちゃんたちはいない。
大木戸門っていうから、俺様は大きな木の門だと思っていたけど、実際の入口は石造りの門に鋼鉄製の柵で「新宿御苑 大木戸門」という木製のでかい看板から門に連なる守衛所まで、歴史の重みをずっしりと感じさせている荘厳さ。流石だね。門の向こうには沢山の木々がまさに林立していて、まだまだ冬の顔をした北風がその枝々を揺らしている。
「マリア、寒くないか?」
「大丈夫。
この革ジャン、ちっともお洒落じゃないけど、
防弾と防寒に関しては一級品みたいだから」
そうなんだよな。俺様とマリアの衣装って言えば、あの晩「バーディクト」で仕入れた、この防弾革ジャンとジーンズにスニーカーのみ。ここ数日間の2人は、その字面どおりに選択(洗濯)の余地もない着たきり雀そのものだ。
「マリア、ごめんな。
でも、あともう少しの辛抱だからな。
神龍の追っ手さえ振り切ったら、カワイイ服の10枚や20枚、
俺様が必ずプレゼントしてやるから」
「ふふふ、本当?
当てにしないで待ってるわね。
だって花田さんから聞いたんだもの。
E坊は、いっつも素寒貧のバンドマンだよって」
「は、花ちゃんったら、ひでえなあ」
そう言って笑う俺様とマリアは、何となくいい雰囲気になってきたんだけど、もう1人大木戸門に近づく人影に気づいて、慌ててお互いの顔と顔を遠ざけた。
「あっ!」
20メートルばかり先のその人影を見て、マリアが唐突に声を上げた。そして半歩ほど後退りしたマリアは、俺様の耳に唇を近づけて慌てた口調で俺様にこう呟いた。
「イ、E坊、あの黒いコートに金髪の女。
あれ、神龍ファミリーの・・・」
「えっ?ま、まさか・・・」
エネメルの黒いロングコートに金髪のボブカット。2人の視線の先、すらりとした色白の女は、切れ長の目と薄めの唇に冷ややかな笑みを浮かべていた。
「そう、第一秘書リンダだよ、間違いない。
う、迂闊だったよ。
リンダって名前を聞いた時に思い出してれば・・・」
(やっぱり神龍の罠だったってのか。
ク、クソっ、神龍の野郎には、とっくにヤサは割れてたんだ。
い、いやそんなことより花ちゃんだ。
こいつをどう説明すりゃいいってんだよ)
その時、俺様たちの気も知らない花ちゃんの、とんでもなく明るい声が辺りに響いた。俺様が振り返ると、そこには両手で馬鹿でかい薔薇の花束を抱えた花ちゃんがいた。
「おおい、リンダぁ!」
花ちゃんはとろけるような笑顔でリンダに駆け寄った。おいおい、こいつはやっぱりとんだ女狐だぜ。花ちゃんを見るリンダの顔つきが一瞬でやさしげに変わった。
「ごめんごめん。
買い物してたんで、ちょっと待たせちまったかな。
おいら、花束なんか買うの、生まれて初めてだからさ。
はいこれ、気に入って貰えたかい?
そうそう、ほらあそこ、2人でにいるのが、
お前が会いたがってた友だちのE坊に、
その恋人のマリアだよぉ!」
「ありがとう、花ちゃん」
花束を受け取ったリンダはゆっくりと俺様たちに向かって振り返ると、口元を歪める様にして再び残忍そうに笑った。薔薇越しの氷のようなリンダの視線に、俺様の肩を掴んだマリアの右手が微かに震えている。
【To be continued.】
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