俺様とマリア volume.11 目覚めの午後
「もう起きなよ。お天道様は、もう傾きかけてるよ」
いつもは寝ぼすけのはずのマリアが、珍しく俺様の肩を揺すってやがる。
「ねえ、E坊ったらぁ、起きなよぉ。
今日は、花田さんたちとのWデートの約束だろ?」
ちぇっ、花ちゃんのせいだぜ。花ちゃんが俺様のことE坊だなんて呼ぶもんだから、最近はマリアまで真似して、俺様のことをガキ扱いなんだ。泣く子も黙って小便ちびるEmotional-Noise様が、これじゃ格好がつかねえってえの。
「ねえねえ、E坊ったらぁ」
ぺちっ
マリアは俺様が頭まで被ってた布団を剥ぎ取るや、俺様の背中を強からず弱からず、やさしく叩く。おいおい、寒いよう。でも、えへへへ、こういうのも、悪かないな。俺様は布団を奪い返して頭から被りなおすと、つい甘えたような声を出しちまった。
「ん〜っ、お願い、あと10分、いや5分だけ寝かせて・・・」
「ダ〜メッ、2人とは大木戸門の前に3時待ち合わせだよ。
もう2時半過ぎなんだからぁ!」
「えぇっ?もうそんな時間かよ、まいったな。
ふぁ〜〜〜っ」
ようやく覚悟を決めた俺様が大欠伸の後、ベッドから起き上がった。やっぱり慣れないおでん屋稼業は、本当に疲れるわ。まだ全然寝足りねえよ。
それはそうと、目を擦って起き上がった俺様は、マリアをよく見てドキリとしちまった。おやまあ、マリアさんったら、もう綺麗にお化粧済ませちゃって。花ちゃんとこに世話になってからは、革ジャンにジーンズのままだし、化粧だってろくすっぽしてなかったのに。今日はどういった風の吹き回しなんだろう。ははぁん、なるほど読めた。マリアの奴、花ちゃんの恋人のリンダとやらに、妙なライバル意識燃やしてやがんだな?でも、へへへへ、とっても綺麗だぜ、マリア。まるで女神様みたいだ。
「大丈夫だよ、マリア。
ばっちりおめかししたら、新宿にマリアに敵う奴なんていやしねえよ。
花ちゃんの恋人リンダにゃ悪いが、こいつは楽勝だな?
うん、俺様が保証するよ」
それを聞いてマリアは腕組みをすると、伏目がちに首をゆっくりと左右に振ってみせた。見上げるようにしたその表情は、意外にもちょっと膨れ気味みたいだ。
「何言ってんのさ、E坊ったら。
そんなんじゃないよ、馬鹿だね、もう。
あんたと初めてのデートだからおめかししてんのに・・・
やっぱりあんたにゃ、女心なんてちっとも分からないんだね」
そんなマリアの台詞を聞いた俺様は、マジ、天にも昇らんばかりの気持ちになっちまった。ク――――ッ!もし俺様に輝く銀の翼があったら、今頃きっと俺様は成層圏を突き抜けて、地球の周回軌道上で「マリア愛してる」って1万回は叫んでいるだろうよ。いやぁ、俺様ったら世界一の幸せモンだ。ちくしょ―――っ!心から愛してるよ、マリア。
でも、そう言えば確かにそうだよな。4日前に偶然出会ってからこっち、ずっと隠れたり、逃げたり、戦ったり、おでん屋やったり、楽しい思いなんて、何一つさせてあげられなかったんだな。ある意味、俺様が神龍をぶっとばしたせいで、マリアには、より辛い思いをさせちまってるのかもしれない。マリア、ごめんな。新宿を出たら絶対の絶対、今の100万倍も幸せにしてやるからな。
そんな俺様の思いを知ってか知らずか、革ジャンを羽織る俺様に、マリアは女房気取りでコップと歯ブラシ、タオルを持ってきてくれた。
「サ、サンキュ」
ぶくぶくぶくぶく、ぺっ
根無し草のバンドマンも気楽でいいけど、ホントこういうほんわかしたのも悪かねえ、憧れちまうよな。俺様は昨日の晩、マリアに言われた「石の上にも3年」って言葉をもう1度思い浮かべてみた。
「石の上にも3年か・・・」
顔を洗ってタオルで顔を拭いたら、鏡の中に映った俺様の眉間の皺、なぜか今日は、消えてるのに気がついた。
ホーホケホケ・・・
店の前の花園公園からだろうか、まだ下手っくそな鶯が鳴いているのが微かに聞こえる。春はもう、そこまで来てるんだな。さあ、早春の新宿御苑、Wデートに出掛けるとすっか。
【To be continued.】
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