俺様とマリア volume.9 花ちゃんの恋
俺さまとマリアが花ちゃんちのガレージに居候を始めて、あっという間に3日が経っちまった。ひとつっとこにこんなに長居をするってのは、神龍に追われてる俺様たちにとっては、本当はやっちゃいけねえことなんだけど、花ちゃんといると楽しくって、ついつい長逗留になっちまう。
だって花ちゃんときたら、昨日俺様がここを出てくって言ったら、「もし神龍の子分が来たら、おいらが来た端から全部ぶっとばしてやるから大丈夫、もう1日いろよ」って言うんだぜ。
それに花ちゃんったらさ。俺様とマリアのためにって、どっから手に入れたんだか知らねえけどベッドを担いで来たと思ったら、ガレージの隅に並べちゃってさ。また、そのベッドってのが、電源を入れると回るっていうからイカしてるじゃねえか。ガレージの屋台の周りにゃ朝方まで酔っ払いがとぐろ巻いてるってのに、こんなとこで2人、寝られる訳ねえだろって・・・
でも、そんな花ちゃんのストレートな優しさが俺様もマリアも嬉しくって、俺様はこの3日間、珍しくにこにこしている。ナーバスだったマリアも、花ちゃんのお陰でずいぶんと明るくなってきた。そう言やあ、花ちゃんに昔っから「E坊、その眉間の皺、なんとかしろよ」って、会う度に言われてたんだけど、今日辺りはかなりイイ線いってるんじゃないのかな。
でもその花ちゃんが、一昨日の晩頃からちょっとばかりおかしい。妙にそわそわしてるかと思うと、上の空になったり。トレードマークのスーパーリーゼントを整える為に、お玉片手に鏡の前と屋台を何回も往復してみたり。挙句の果てには、屋台の周りにゃまだ客が3人も残ってるってのに、
「おい、おいら急用が出来ちまったんだ。
悪いけど、食い終わったら自己申告制で勘定してくれ。
金はほら、その缶の中によろしく」
なんて、客ほっぽらかしてどっか行こうとしちまう。
「おい、花ちゃん!
お客がいるってのに、そりゃねえだろ?
用があんなら屋台は俺様とマリアに任しとけよ!」
「E坊、良いのか?
悪いなあ、恩に着るよ。
おいら、これから大事な用があってさ・・・
E坊、どうだい?
おいらのトサカ、きまってるかい?」
はは〜ん、俺様はぴんと来た。ことオンナに関しちゃ、俺様と違って丸っきり縁のなかった硬派の花ちゃんに、いよいよ待望の春が来たかぁ!こいつぁあ、めでてえや。
「おいおい、花ちゃん、いよいよコレでもできたかぁ?」
「し、しぃ――っ!」
俺様の小指を立てる仕草を客に見せまいと、鼻の頭に汗をかきっぱなしで真っ赤になる花ちゃん。こんな小学生みてえなウブな姿見てると、これが本当に新宿一丁目にその人ありと言われた「ステゴロの花」かい?と思っちまうぜ・・・
「じゃあ明日は、俺様とマリア、それと花ちゃんたちとで、
最初で最後のダブルデートと洒落込もうぜ!
俺様たちも、そろそろヤサを替えねえとやばそうだしな」
「あ、ああ、わかった。
リ、リンダに言っとくよ・・・」
頭を掻きながら満面の笑みで答えた花ちゃんは、そそくさと店を出て行ったんだけど、本っ当に心の底から嬉しさが、後姿から滲み出してきやがる。こいつはスキップでもしかねない勢いだぜ。
(俺様のマリアの次は、花ちゃんのリンダかよ・・・
おいおい、新宿にゃあ日本人は、もういねえのかい?)
俺様は1人でふふっと笑って屋台に向かったんだが、ふと何かこう、妙な胸騒ぎを覚えちまった。違和感と言ってもいいかもしれない。彼女いない歴25年の花ちゃんに、あまりにもタイミングよく、突如として出現した恋人リンダ。そのリンダに俺様は、作為的な何かを感じてしまったんだ。
(まさか、神龍の描いた絵じゃ・・・)
そう思って、俺様はそれをすぐに打ち消した。
(やべえよ、また眉間に皺寄ってんじゃねえかよ。
目の前の全てを疑ってかかっちゃ切りがねえや。
何で俺様は、花ちゃんの幸せを正面から素直に祝ってやれねえかな。
そうそう、スマイル、スマイル)
俺様はいつのまにかまた現れちまった眉間の皺を、両手で無理矢理伸ばしてみた。客の親父が俺様の顔を覗き込んで言った。
「兄ちゃん、そりゃ何のまじないだい?
ちくわぶと焼酎くんな」
俺様はいやな気持ちを振り切って、目いっぱい明るく答えた。
「毎度ありい!
マリア、こちらにちくわぶと焼酎だ。」
俺様の声がガレージに響いて、マリアが笑いながら振り向いた。
【To be continued.】
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