やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年03月05日

ケンと シロと そしてチビ 第28回


ケンと シロと そしてチビ 第28回 


 峠への急勾配を過ぎるとなだらかな葛篭折(つづらおり)の下りの坂道に変わる。その坂道をゆっくりと下りてゆくトーサンに抱かれるじじいは、まるで無垢な赤ん坊のようだった。それは道端の空き箱の中、空腹さえ忘れて泣いていた俺さまやじじいが、カーサンの暖かな手に抱かれた時のあの思いと同じなんじゃないかなあと俺さまは思った。
 坂道を降りきると小さな石の敷き詰められた細い道になっていて、進むにつれて道幅はだんだんと広くなっていく。すっかり葉の落ちちまった木立を抜けると、ぱあっと視界が開けて一面に河原が見渡せるようになる。例の古びた祠は河原の左手側。桜の連なる土手には、その祠の脇の道を暫く進めばいい。1年ぶりに見るじじいには、この風景があの日のままだと映っただろうか?それとも、随分と変わってしまったと映っただろうか。トーサンが祠を行き過ぎようとしたその時、じじいはちょっと遠慮がちに「わふ」と吼えた。

「どうしたケン、そろそろ歩けそうか?」

 じじいの尻尾が少しだけ動いて、トーサンはちょっと迷った後、じじいをそろりと降ろしてみた。でも、やっぱりじじいにはまだ立つには早すぎたようで、すぐにくたくたっと伏せの体勢になっちまう。トーサンも久々の坂道が、かなり堪えたんだろう。祠の脇に腰を下ろして一息入れることにしたようで、ポケットからタバコを取り出している。
 じじいが、トーサンに内緒で俺さまとシロに目配せをしたんで、ふたりはすぐに突っ伏したじじいの鼻先に並んで顔を覗き込んだ。

「ちょっとばかり、無茶だったかのう・・・」

 じじいは、俺さまとシロを交互に見ながら呟いた。

「い、いや、モウロクじじいにしちゃ、よくやったよ。
桜の季節に向けての練習と考えとけば上出来だ」

「うん、僕たちの想像以上だったよ」

 ふたりの言葉にじじいが苦笑いしながら頷いた。あれだけ荒かった息は、もうだいぶ落ち着いているが、まさに疲労困憊って表情だ。
 その時ふいにトーサンが、こちらに向けて声をかけた。

「おい、ケン。
お前も覚えてるだろう?
何年くらい前だったかなあ?
その祠に、子連れの雌犬、
そう真っ黒な奴が住みついたことがあったろう?
ケンは散歩の度、随分と仲良くしてたもんだから、
実は俺とカーサンは、お前がその犬と一緒に
どこかに行っちゃうんじゃないかと、そりゃあ心配してたんだぞ」

 俺さまは驚いた。さっきじじいから聞いた話を、今度はトーサンから聞くことになろうだなんて、俺さまもシロも思いもよりはしなかった。トーサンは続けた。

「ケン、お前はなあ、3人の子どもたちが次々と巣立って、
俺たち夫婦がまた2人きりになっちまった時にやって来たんだよ。
お前が来てくれて、それまで灯が消えたようだった家にまた明るさが戻った。
俺たちは、お前にどれだけ勇気づけられたろう。
どれだけの笑顔をもらっただろうな。
本当に、俺たちはお前に、どれだけ感謝していいかわからないよ。
それが、ヤブ先生の話じゃ・・・
い、いや、なんでもない。こんな話は止めとこう・・・」

 じじいは、放心したようにトーサンの話を聞いていた。涙が流れていた。でも、泣いてはいなかった。素晴らしい笑顔だった。じじいは、シロにやさしく言った。

「シ、シロ、すまんが、頼みがあるんじゃ。
桜の小枝を一本、拾ってきちゃもらえんかのう」

 じじいは、クロとの出会いから7年以上経った今、ようやく果たせなかった答えを出そうとしている。一緒に旅に出るなら祠の右に、家に残るのであれば祠の左に桜の小枝を置くという約束の答えを。
 程なくシロが枯れた桜の小枝をくわえて戻ってきた。じじいは祠の中央で小枝を受け取ると、立てないながらもほふく前進の要領で、少しずつ前に進んでいった。それは、俺さまとシロが思っていた通りの、祠の左側に向かってだった。桜の小枝を祠の左側に静かに置くと、じじいはトーサンの方を見上げた。

「わしは、なんて幸せ者なんじゃろう。
そして、なんて馬鹿だったんじゃろうな。
トーサンやカーサン、そしてチビのたくさんのやさしさに囲まれて、
夢のような暮らしを17年間も続けてこられたっていうのに、
こんな年になるまで、それが当たり前の様に思ってしまっていたとは・・・

今、考え直してみるとのう、
大袈裟に7年前の思い出に白黒をつけるなどと格好をつけてはいたが、
本当はそんなものどうでもよかったんじゃないかとも思うんじゃ。
お前さんたちふたりに、いや、自分自身に格好つけていたんじゃよ。
平坦に見えるつまらないわしの一生だってドラマはあったんだぞって、
ただそんな風に言ってみたかっただけなのかもしれない。

でも、峠への中腹でトーサンがさっき話してくれた
トーサンとの1万回の散歩と、カーサンからの1万回の食事。
その真実に気づいた今、わしは、もう、何も迷いはしない。
咲く花や色づく葉、空や雲の季節の移り変わり。
そして、トーサン、カーサンの笑顔とチビ。
ドラマのない平坦な毎日のように見えたとしても、
わしにとっては1日として同じ日なんてなかったんじゃ。
みんなで積み上げた特別な17年だったんじゃ」

《つづく》




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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 08:53| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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