やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年03月04日

ケンと シロと そしてチビ 第27回


ケンと シロと そしてチビ 第27回 


「こっからが本番だぞぉ。
でも、ケン、本当に大丈夫か?」

 トーサンの問いかけに顔を上げて「わう」と吼えたじじいは、草むらの俺さまとシロにも一瞥をくれた。もうちょっと休んでればいいのに、気の逸(はや)っているじいいは、もう出発しようとしてやがるんだ。でも、そこは流石に年の甲のトーサンだ。

「ケン、まあ、そう焦るなよ。
久しぶりなんだし、もう少し話をしようじゃないか」

 そう言うとトーサンは、ジャンパーのポケットからタバコを取り出して火を点けた。紫煙が目の前の坂道をゆっくりと駆け上がっていった。

「なあケン・・・
俺とケンとでこの道を今まで何回通ったことだろうなぁ。
雨の日も、風の日も、よくぞ毎日散歩に来たもんだよ。
ええと・・・
朝と夕の1日2回ずつだから・・・
1年間で・・、7百・・30回か?
それが、お前が1歳くらいから去年まで欠かさずなんだから、
15年以上ってことだからなぁ・・・
ええと・・・、う〜ん、そうだよ。 
かれこれ1万回以上にもなってるんだなぁ。
こりゃあ驚いた。
凄いことだぞ、これは。

ま、待てよ。
・ ・・と言うことは、だ。
メシも朝晩1日2回ずつだから・・・
カーサンもケンに1万回以上メシをあげてるってことか。
こいつも凄いじゃないか。
考えてみると俺たち夫婦とケンとの17年間ってのには、
本当にいろんなものが詰まっているんだなあ・・・」

 へええ、1万回以上かぁ・・・
トーサンとじじいいの話を聞いて、俺さまは正直じじいが羨ましくなった。でも、それとともにこの今日の1回は、恐らく最後の1回になるのかなあと、そんな風に思っちまった。

「そろそろ行くとするか?」

 トーサンの声にじじいは、すぐさま「わう」と答えたけれど、尻尾はピンと立ったままで、出発前の様にぶんぶんとは振られていなかった。きっとじじいは覚悟を決めたんだ。



 じじいとトーサンは休憩地点と峠の半分近くまで来ている。最初こそ威勢が良かったじじいだったが、歩き初めて3分が過ぎた頃から様子がおかしくなってきた。息は荒いし、足元もふらふら、とても見ちゃあいられやしない。でも、じじいには諦める気はさらさら無いらしい。
 でも・・・

「ケ、ケン!大丈夫かぁ!」

 じじいは、坂道の半分を過ぎた辺りでぱたんと倒れ込んじまった。何回も起き上がろうとしたんだけれど、結局は立てずじまいのまま荒い息を吐きながら目を閉じて、尻尾もぱたりと地面に落ちた。やっぱり今のじじいには、峠まで続く上り坂は、無謀を通り越して、もう無茶だったんだ。
 俺さまとシロは慌てて駆けつけた。俺さまたちが覗き込む中、トーサンは、じじいの背中を優しくなでている。じじいはぜいぜい言ってるだけで、ぴくりとも動きやしない。トーサンが心配そうにじじいを抱えた。トーサンはちょっと驚いた表情で、そっと頬擦りしながらじじいに言った。

「ケン、随分と軽くなってたんだなぁ。
まるでお前が来た子犬の頃みたいだ。
それなのに俺は、ちっとも気づいてやれなかったよ・・・」

 トーサンの言葉にじじいは、薄目を開けて何か言おうとしたけれど、

「・・はぁ・・・ひゅう・・・はぁ・・」

 じじいからは、空気が漏れるような荒い息が出るばかりで、それはとても返事とは呼べるしろもんじゃなかった。
 トーサンは、坂の中腹でじじいを抱いたまま、暫くの間立ち尽くしていた。天を仰いだりして、何か迷っている風な顔つきだった。川上からの心地よい風が吹いて、坂の上の枯れ葉がかさかさっと言ったのを切欠に、トーサンは もう1度じじいに聞いてみた。

「ケン、どうする?
このまま帰ろうか? それとも・・・」

 トーサンの言葉が終わりきらないうちに、じじいは体中の力を振り絞って応えた。

「はふ・・」

 じじいには、もういつもみたいに「わう」と応えるだけの力が残っていなかったけれど、今の「はふ」ってのには、妙な力強さがあった。それからじじいは、自分をじっと見つめているトーサンの顔を、急にぺろんと舐めた。トーサンは、びっくりしながら笑った。

「こいつめ・・・」

 じじいの鼻がク〜ンと鳴ったように聞こえたのは、俺さまの空耳じゃあないと思う。

「よし、河原まで抱っこしていってやるよ」

 じじいはもう1度「はふ」と空気が漏れるように、でも力強く吼えた。
 
《つづく》





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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 08:14| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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