やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年03月03日

ケンと シロと そしてチビ 第26回


ケンと シロと そしてチビ 第26回 


 トーサンが首輪に鎖をつけている間、じじいはぼんやりとしか見えないはずの目でずっと遠くの河原の方角を見つめていた。

「行く気だよ、あの顔は・・・」

 シロの言葉に、俺さまもごくりと唾を飲んだ。

「河原の祠に続く道のこと、
見えなくなっちまった今でもしっかりと覚えてやがるんだなぁ」

 じじいは、準備運動代わりに大きく伸びをしようとしたんだけど、踏ん張りがきかないのか前足をズルズルっと前に滑べらせちまって、お尻を突き出しながら万歳したような、なんとも情けない格好のまま地面に顎をしたたかぶつけている。

「おいおい、ケン、大丈夫か?」

 トーサンが心配そうに覗き込むのを尻目に、じじいは「わうっ」と吼えて、こんなの屁でもないとでも言いたげに尻尾をぶんぶんと振っている。

「ケン。
あんまり無理するんじゃないぞぉ・・・」

 トーサンがじじいの頭をなでるのを見て、シロが俺さまの方に向き直った。

「チビ、トーサン、どうするかな?」

「どうするって?」

「ほら、じいさんがあそこの角を曲がらずに
真っ直ぐに河原に向かって行った時、
トーサン、どうするだろうかって考えたんだけど、
あのずっこけた背伸びを見せられた後じゃぁ・・・」

「いや、トーサンなら、
トーサンなら、じじいの気持ち分かってくれるって。
もう18年間の男同士の付き合いなんだぞ。
トーサンなら、じじいに味方してくれるはずだ、絶対」

「そうかな?
僕はそうは思わないな。
トーサンはやっぱり、じいさんの体のことを気づかって、
この間と同じ家の周り1周にしようって・・・」

「いや、トーサンなら、絶対に分かってくれる。
じじいにもう後が無いってこと、一緒に病院に行ったトーサンは、
ヤブ先生からその耳で聞いているんだ。
そう、最後の、最後の挑戦なんだ。
じじいの挑戦をトーサンなら、絶対に分かってくれるって」

「チ、チビ・・・」

 でも、そうは言ってはみたものの、冷静に考えてみれば、シロの言う通りかもしてない、なんて考え込んじまった俺さまだったけれど

「わうわう!わうわう!」

 けたたましく吼えるじじいの声ではっと正気に戻った。

「よしよし。わかった、わかった。
ケン、わかったから、そんなに引っ張るんじゃない。
それじゃあ、行くぞぉ」

 じじいは、トーサンをぐいぐい引っ張って、まるで蒸気機関車みたいな勢いで歩き始めた。そして、しばらく歩いた後、少しだけ立ち止まるとこちらを振り向いて、

「わうわう!」

 俺さまとシロに、力強く「付いて来い」と告げたんだ。俺さまとシロが顔を見合わせてから慌ててじじいの後を追いかけて行くと、じじいは力強い足取りのまま、前回は左折した問題のあの角に丁度差しかかったところだった。

「わうわう!」

 じじいはトーサンの顔を見上げてから吼えると、河原への道に向かって真っ直ぐに踏み出して、ぐいっと鎖を引っ張った。トーサンは、ちょっとだけ困った表情をしたけれど、次の瞬間には、すぐににっこりと嬉しそうに笑っていた。

「そうか、ケン。
久し振りに 河原に行きたいのか?
そうかそうか、行きたいか?
本当に、久し振りだものなぁ。
でも、お互いに年を取っちまったからゆっくりにしようなぁ」

 そう言うとトーサンは、自分の杖代わりにするのだろう。道端に落ちていた手頃な枝振りの木の枝を拾い上げて、また笑った。

 桜並木のある河原までの道って言うのは、片道せいぜい1キロ強程度の道のりなんだけれど、500メートルくらいの割と平坦な細い道の後、沢を見下ろしながらの切り通しの道が登り勾配で峠まで続くんで、そっからは、じじいばかりじゃなくってトーサンにもかなり堪えるに違いない。それから道は、祠を真下に見た峠のてっぺんで隣村へ続く下りの道と、河原に続く葛篭(つづら)折りの道に分かれる。祠への道は緩やかな傾斜に変わっていくんで、その峠に向かう沢沿いの上りをじじいが最後まで歩き切れるかが、この無謀とも言える1年振りの挑戦の鍵になるはずだ。
 俺さまとシロは、それこそ毎日じじいのために桜の葉を拾いに来てた訳だから、この道のことは もう隅から隅まで知り尽くしている。だから、この細い平坦な道が終わりに差し掛かった今、どちらからともなく顔を見合わせちまった。
 ここまでのじじいは、ハアハアと激しい息遣いの合間に、ぐるるるって声が時折聞こえてくるほど、まさに気合が入りまくっていて、そしてその足取りは、それに見合うだけの力強さだったけれど、これまでの平坦な道と、ここからの胸突き八丁を、俺さまたちふたりはとても同じ風には見られなかったんだ。
 でも、トーサンは流石だった。
いきり立って、ともすると暴走しそうなじじいを絶妙のタイミングでなだめて、そしておだてて、休憩しながら確実に進んで行ったのは、やっぱりじじいを知り尽くしているんだなぁ。

「さて、ケン。 
ここで丁度中間点くらいだ。
ここから上り坂だし、一休みするとしよう」

 トーサンは、それまでの潅木や枯草に囲まれた道から見晴らしのいい切り通しの道に出ると、久し振りの景色を懐かしむように、じじいと一緒にしゃがみ込んだ。

《つづく》




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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 10:24| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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