やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年03月02日

ケンと シロと そしてチビ 第25回


ケンと シロと そしてチビ 第25回 


 やっぱりじじいは知っていた。
自分の命が残り少ないことに気づいていた。
 俺さまの演技が、下手糞でわざとらしかったから、じじいに悟られてしまったんだろうか。よくよく考えてみりゃ、そうかもしれない。
 今までじじいにあんだけ悪態をついていた俺さまが、急に薄っぺらな即席ラーメンみたいなやさしさを振り撒き始めたら、そりゃあ誰だって不審がるに決まってるよ。
 それとも・・・、生き物ってのは直感的に自分の一生の終わりを、感じとれるものなんだろうか・・・
 悔いを残したくないってじじいの気持ちは痛いほど分かる。いや、本当の切実なところまでは、青二才の俺さまには分からないかもしれないけれど、分かりたい。でも、河原の祠まで歩きたいだと?しかも、今すぐにでも?あんなにヨタヨタの足でかい?昨日、ウチの周りを1周しただけで、あんなに疲れきってたくせに?
 それでも、今すぐにでも祠に行きたいって、じじい、あんたは、本気でそう言うのかい?それは、残された時間ってのが、それほど残り少ないとでも、あんたは言いたいのかい?
 俺さまは縁側で丸くなってさっきまでのじじいとの話を反芻していた。

ガサガサッ

 考えを巡らせていた俺さまの背後、玄関の向こう側で物音と気配がしてシロが門の脇、ぴょこんと顔を出した。

「やあ、チビ。じいさんの様子はどうだい?
今日はちょっとばかり温かいからさ、
河原の上流まで足を伸ばしてきたんだけど、
桜はもうすっかり葉が落ちてしまって丸坊主さ。
すっかり寂しい冬の風景だったよ・・・
あんなに寂しいところがじいさんが言うように、
本当に花で一杯になるなんて、僕にはとても信じられないよ」

 やっぱりだ。用事があるとか言いながら、じじいを休ませる口実にシロの奴、河原に行ってやがったんだ。

「シロ、ちょっと聞いて欲しいんだ。
その、じじいいのことなんだけどな・・・」

 カンの良いシロは、俺さまの雰囲気から察したのだろう。神妙な顔つきで俺さまに近寄って来た。

「さんざん俺さまからけしかけといて、こう言うのもなんだけど
じじいの奴ったら、すぐにでも河原の祠まで歩いて行きたいって、
そう言いだしたんだよ・・・」

「い、今すぐにかい?そいつは、無謀ってもんだよ。
でも、随分と急じゃないか。
散歩を再開した昨日の今日だよ。
そ、それって、もしかして・・・」

 シロの言葉に俺さまは、目を伏せて頷いた。

「ああ、じじいは、気づいていたよ。
自分に残された時間が、そう長くないってことを・・・」

「・・・・・・・・」

 さすがのシロも二の句を継げないで、黙って俺さまを見ている。

「確かに俺さまは、赤く色づき始めた桜の葉から始まって、
花見をしに河原に3にんで行こうだとか、
そのためには春までには歩けるようになれだとか、
さんざんじじいのケツを叩いてきた。
それに応えてじじいは、頑張った。
俺さまの想像をはるかに超えて頑張った。
昨日なんかは、家の周りを1周するほどまでになった。
でも・・・」

 シロが尻尾をピンと立てて、やっと口を開いた。

「チビが言いたいこと、わかるよ。
僕だってじいさんがあそこまで頑張るとは
思ってもみなかったもの・・・
でも、教育係としては失格かもしれないけれど、
河原までってのは、例えそれが春だったとしたって、
たぶん、相当難しいと思うんだ・・・」

「ああ、俺さまだって半分以上は、
出来ると思って言ってやしなかったよ。
いや、正直、家の周り1周だって、
俺さまにとっては、上出来すぎるくらいだったんだ。
じ、実はシロにもじじいにも言ってやしなかったけど、
ヤブ先生のところでトーサンが言われたのは、
じじいは・・・
こ、この冬は、越せないだろうって・・・・」

「え、ええっ? そ、そんな・・・」

 じじいの残された時間がまさかそんなに少なかったとは、シロも思いもよらなかったに違いない。大きく見開いたシロの目にも、薄っすらと涙が滲んでいた。でも、野性の残っているシロでさえ気づかなかったことを、例え自分のこととは言え、じじいはハナっからわかっていたんだな。さすがに18年も生きてきた仙人みたいな犬だよ。しかし、こんなすぐにばれちまったような嘘だったら、俺さまももっと素直な気持ちでじじいと向かい合えばよかったなぁ。バレバレなのは南天の木陰だけじゃあなかったんだ。これじゃあ俺さまは、とんだピエロだよ。
 俯いて暫くそんなことを考えていたら俺さまの気持ちを先回りしたシロが声を掛けてきた。

「じいさんはさ、僕らが思っている以上に自分のことや、
僕ら周りのことをずうっと判っていたんだね。
さすがに普通の犬の倍近く生きてるだけのことはあるよね。
でもね、チビ。
だから、そんなじいさんだからこそ、
チビが必死になってお芝居をしていたことも
全然気づかない振りをしていてくれたし、
少しでも長生きしてもらおうと歩く特訓をしたことだって、
あんなにしんどかったのに一生懸命つきあってくれたんだよ。
1年振りに散歩に出るほどまでにね・・・

でもね、それがなぜかって言ったら、
何よりもじいさんには、チビのその気持ちが・・・、
自分の息子と思っているチビのやさしい気持ちが、
本当に、本当に、嬉しかったんだと思うんだ」

「・・・・・・・」

 チキショー。シロって奴は、相変わらずおせっかいの上に、知ったかぶりの上から目線で、スカしまくった本当にやな奴だぜ・・・
 俺さまが涙目を悟られまいと空を仰いでいたその背後、玄関から鎖を手に出てきたトーサンが、ぽつりと呟いた。

「ケンの奴、今日も散歩に行きたがるのかなぁ・・・」

「わうわうわうっ!」

 あの遠くなっちまったじじいの耳で、こんな小さな呟き、聞こえるはずは無いだろうに、じじいは驚くほど元気に数度吼えた。俺さまとシロは、思わずトーサンの顔を見つめちまった。

《つづく》





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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 08:53| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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