やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年03月01日

ケンと シロと そしてチビ 第24回


ケンと シロと そしてチビ 第24回 


 じじいはそこまで話すと、ぼんやりとした眼であっちを見たまま口を噤んで、そのまま固まっちまった。

「そ、その後、クロとは?」

 沈黙に耐えられなくなった俺さまのあまりにも気の利かない質問にぽつりとじじいが答える。

「もう2度と、会うわけなんてないじゃろ・・・」

「ま、まあ、そうだよなぁ。
クロも子どもたちも、こんな山ん中に戻っちゃ来ないだろうし、
一方じじいは、鎖に繋がれたまんまだもんな・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「で、じじいは今、どう思ってんだよ?
あん時、クロと一緒に行けばよかったと、
やっぱり今でも思ってんのかい?」

 ずっと黙り続けのじじいが、やっとのことで一言、吐き捨てるように言った。

「わからん」

「わ、わからんって、じじい。
自分のことじゃねえかよ、わからんってことはねえだろ?
まあ、俺さまが客観的且つ冷静に判断するとだなぁ、
不甲斐ない自分のことは棚に上げといて、
俺さまに対しては、『恋は攻めろ』だなんて言ってたところを見ると、
未練がかなり残ってると見たんだが、どうだい?違うかい?」

 じじいは、ちょっと間をおいて応えた。

「うん、実のところは、そうかも知れんのう・・・
でも、でもなぁ、チビ。
わしは、クロやあの子たちとの別れを引きずったまま、
後悔しながらずっと生きてきたわけじゃないんじゃよ。
それどころかわしは、クロのことなど、とうの昔に忘れてしまっていて、
思い出したのは、意外にもつい最近の話なんじゃ・・・
実は、さっき話した別れの河原での出来事なんか、
正直この数年は、綺麗さっぱり忘れたまんまだったんじゃ。
既にわしにとってクロとの思い出は、もうとっくの昔に風化していたんじゃ。
どうして忘れちまったのかのう?
あんなに悩んで、苦しんで、自分を責めて、
もう消えてなくなってしまいたいとさえ思っていたのに・・・・
自分自身のことながら、それがわからんのじゃよ。

ところが、そんな時にふらりとやって来たのが、シロじゃ。
自由奔放で、飄々としたシロ。
そんなシロに触れてわしの記憶の中、
風化していたはずのクロが、一瞬で瑞々しく蘇ってきたんじゃ。
そしてじゃ、チビ。
全てを思い出させてくれたのはのう、お前さんだったんじゃよ」

「お、俺さまが?」

「そう、お前さんじゃよ、チビ。
お前さんが知らず知らずのうちにあのシロの魅力に引き込まれて、
日々変わっていく姿が、あの頃のワシと重なり合って、
わしの正直な気持ちを・・
そう、あの時の大切なあたたかだった本当の自分の想いを、
わしに思い出させてくれたんじゃ・・・
いや、決してこれまでのトーサン、カーサンとの暮らしが、
嘘やまやかしだなんて、わしは断じて言わない。
でも、踏み出したくて、どうしても踏み出せなかったのが、
わしの中で燻(くすぶ)っているのは、これは確かな事実なんじゃ」

「俺さまとシロを見て、焼けぼっくいに火がついたってわけか・・・」

 大きく頷いたじじいは、続けた。

「そして、全てを思い出したワシは今、こう思っているんじゃ。
わしは未だに、まだあの日のクロへの結論を出さないまま、
あの頃と同じように安穏と8年間も過ごしてきてしまった。
あぁ、もう遅いのは分かってる。
でもなあチビ。
わしはあの日のクロに対する返答をしなければならんと思うんじゃ。
もう1度、あの河原の、あの祠の左右のどちらかに、
わしは、桜の小枝を置かねばならんのじゃ。
そう思い始めたら、もう居ても立ってもいられないんじゃ。
わがままを言うようじゃが、判ってくれんかのう。
わしはもう一度行ってみたいんじゃよ、あの祠に・・・

チビも気づいておるじゃろう?
ワシに残された時間は、もう僅かなんじゃよ。
時間がないんじゃ。
全く間抜けな話しじゃが、あれほど持て余していた時間が、
こんな肝心な時に、もう無くなってしまうんじゃ。
だからなおさら、わしは急ぐんじゃよ。
チビなら、分かってくれるだろう?
わしは、臆病者の卑怯者のまま死にたくないんじゃ」

え、ええっ?
し、死ぬって・・・
やっぱり、じじいはすべてを知っていたんだ。

「・・・・・・」

 かける言葉がみつからない俺さまは、ただ、じじいを見つめていた。じじいが言っている無謀な挑戦もさることながら、俺さまには、じじいがもうわずかな時間しか生きられないことを知っていたことが、ショックでならなかった。じじいは俺さまを見つめ続けていたけれど、今のじじいにかけてあげられる言葉なんて、世界中のどこにも無いような気が、俺さまにはしていた。

《つづく》





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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 09:26| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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