やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年02月29日

ケンと シロと そしてチビ 第23回


ケンと シロと そしてチビ 第23回 


「それからまた2ヶ月ほどが過ぎて、
いつになく暑かったあの年の夏もようやっと終わってのう、
山間(やまあい)のこの村にもようやく秋の気配が訪れ始めたんじゃ。
その頃のクロの子どもたちのやんちゃさと可愛いさときたら、
そりゃあもう、大したもんじゃったわい。

夕焼けの中、赤とんぼが祠の軒先、
育児に疲れて居眠りをするクロの鼻先にとまっとる。
それを4にんのやんちゃ坊主たちが、
クロを起こすまいと必死に笑いをこらえながら
顔を見合わせて見つめとった。
産まれたてで、まるでネズミみたいだったあの子たちは、
この4ヶ月の間にみるみる大きくなって、
片言ながらも少しは言葉を話せるようになっとった。
特にクロにそっくりの長男は、クロに似て頭もいいらしくてのう、
真っ先に言葉を覚えたんじゃ。

『ねえ、アンタ・・・』

クロはワシのことをいつもそう呼んどったが、
その『アンタ』ってのが、あの子たちの初めて覚えた言葉だったってのは、
ふたりの微妙な関係を思うと、いささか皮肉めいとった・・・

『この子たちもこれだけ大きくなったんで、
もうそろそろ旅を始められそうなんだ。
この辺は、山間だから随分と冷え込むんだろう?
冬を向かえる前にもうちょっと暖かい里の方に越そうと思うんだ。
で、3日後の朝、この祠を出るからさ。
ア、アンタも・・・』

クロからは、桜の葉が黄色く色づき始めたら出発すると、
そう何度も聞かされていたはずなのに、それがあと3日と聞かされて、
わしの心臓はドキドキと張り裂けんばかりに音を立てていた。

わしは、まだ、結論を出せずにいた。
いや、敢えて出そうとしなかったんじゃ。
考えてる振りをしながら、結局は最後の最後まで先延ばしにして、
目の前の現実、苦痛から逃げていたんじゃ。
クロの出発の日なんてまだまだ先だ、
いや、永遠に来ないんじゃないのかと、
自分で思い込もうとしていたんじゃよ・・・。
言われたままだけで自分では何一つ決められない、
クロの言う、まさに飼い犬根性そのもの、
それがあの頃のわしじゃった・・・

クロは一切の催促はしなかったけれど、
答えを求めているのは、明らかじゃった。
朝夕の散歩での会話もギクシャクとしたものになってしまい、
途切れてしまった会話の途中で目を伏せたクロが、
祠の前の桜の小枝を何度となく見ていたのが可哀想じゃった。

わしは、結論の出せない自分を責めた。
臆病者、卑怯者と自らを罵った。
でも、それでも、踏ん切りは、つかんかった・・・
祠の桜の小枝は、いつまで経っても、
クロが置いたあの日の真ん中のままじゃった。

そして、クロの決めた出発の朝が来た。

『アンターっ!』

クロの声が河原の向こうで聞こえた。
トーサンに鎖をはずしてもらったわしは、
それでも、何も出来ないまま、ただぼんやりとクロのことを眺めていた。
ここ最近、鎖をはずしても駆け出すことも無いわしに、
トーサンが遠吠えのする方を見やってから、静かに言った。

「ケン、お前のこと、呼んでるんじゃないかい・・・」

トーサンのその言葉を聴いた瞬間、
ワシの胸にいつもの何倍もの空気が
いっぺんに入り込んだような気がして、
ワシは空気の中で溺れそうになりながら、
足掻くように顔を歪めて、助けを求めて、吼えた。

子どもたちの声が、自分の吼える声の合間に聞こえた。

『アンターっ』 『アンターっ』

川沿いに下って行く親子5人が桜の葉の影になって消えた後、

『アンターっ』

最後に、クロの声がはっきりと聞こえた。
でも、ワシはまだ、吼え続けとった。
喉が破けるほど吼え続けとった。

そして、すべては、終わったんじゃ。
そう、すべて・・・」

《つづく》




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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 09:07| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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