やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年02月28日

ケンと シロと そしてチビ 第22回


ケンと シロと そしてチビ 第22回 


「ふうう・・」

 ひとつ大きく息を吐き出すと、それまで俯き加減だったじじいは、俺さまの方に向き直った。でも、正面は見ているものの、やっぱりほとんど見えない目は、遠い日を見ているようだった。

「あれから、また時が経って、いつしか季節は初夏になっとった。
クロのお腹はもうパンパンに大きくなっていてのう、
もう出産が近いだろうことは、何の知識も無いわしにも想像出来た。
それなのにわしは、クロにまだ返事が出来ないままで、
悶々としながら締め付けられる思いで毎日祠を背にしておった。
夜だってそうじゃ。
決意をしては、それを打ち消し、
打ち消しては、クロの顔を思い浮かべて・・・

内面ではそんなに考えに考えているのにのう。
はたから見れば、以前と全く変わりない朝夕2回の散歩と、
昼寝を繰り返すだけの相変わらずの間延びした毎日じゃった。
クロには相も変わらずこのわしは、
飼い犬根性にどっぷり浸かっているように見えたんじゃろうなぁ。

ところがある日の夕方のことじゃ。
あの時のクロは、いつものヒトを小ばかにしているような表情とは
まるで別人みたいに、硬くて、辛そうだったんじゃよ。
きっとこの晩当たりに産まれるに違いないとわしは思った。
妙に心配になっちまってなぁ。
その日もいつも以上にクロのことばかり考えてしまって、
なかなか眠ることが出来んかった・・・
挙句は、翌朝、いつもより1時間も早くトーサンに散歩をせがんで、
朝っぱらから吠え続けた上に、鎖を持つ眠そうなトーサンを、
河原まで引っ張っちまったんじゃよ。
河原で鎖をはずしてもらうのももどかしくってなぁ。
掛け金が外れる音と同時にわしは、祠に向かって走ったさ。

そして、祠で、ワシが見たのは・・・
乳に吸い付いて離れない4匹の天使たちと、
それを頭上からやさしく見守るクロだった。

ちょうど祠の入り口でお日様を背にして立っていたわしを
眩しそうに、ちょっと眼を細めて見るクロは、
それまでのワシが知らなかった優しさに満ちた表情、
そう、まるで聖母のような母犬の顔で微笑んだんだよ。

『お、おめでとう。
みんな、クロも、こどもたちも、元気そうで何よりだ』

わしの世間がもっと広かったなら、
もうちょっと気の利いたお祝いが、贈れたかもしれなかったのう。

『あんた、今朝は随分と早起きだねえ。
アタシのためにこんな朝早くに来てくれたのかい?
ありがとう、アタシも、こどもたちも、みんな元気だよ』

わしは、生命のバトンの受け渡しを目の当たりに見て、
随分と感動して興奮していたんだろうな。

『何か、僕に手伝えること、あるかい?
何でも言いつけておくれよ、クロの力になりたいんだ』

以外にもわしは、そんな台詞を吐いていたんじゃよ。
クロは、意外そうな顔で、いや、でも・・・
きっとその台詞を確信していただろうなぁ。
わしに甘えるように言ったんじゃ。

『そしたら、悪いんだけどさぁ。
この子たちったら、この通りすごい食欲でねえ、
お陰でアタシはこの場を暫く動けそうにないんだよ。
アタシもお腹が空いちゃってね。
入口のお供えをここまで持ってきて、
アタシに食べさせちゃもらえないかい?』

ワシは、一瞬躊躇した。
だって、そうだろう?
飼い犬のワシが、よその食べ物を、
しかも、神様へのお供え物を盗るだなんて、そんなこと。
しかしなあ、意外にもワシの躊躇は、ただの一瞬じゃったよ。
ワシの盗ってきた団子をクロは、うっとりしたような顔をして食べていた。
今にして思えば・・・
その時のワシは、クロに試されていたのかもしれんなぁ・・・」

「じゃあ、桜の小枝は、祠の右に置いたんだ・・・」

俺さまの言葉に、じじいは眼を閉じて、ゆっくりと左右に首を振った。

「わしはのう。
クロも好きじゃが、トーサンもカーサンも好きなんじゃ。
自由も欲しいけれど、安定した生活も失いたくない。
意気地無しと笑うが良い。
やっぱりわしはずっと、決心がつかないままじゃった。

祠の入口の真ん中には、きっとクロが用意したんじゃろう。
いつの間にか桜の小枝が置かれていたんじゃが、
その小枝は夏の盛りになってもずっと真ん中のままじゃった」

《つづく》




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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 13:20| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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