やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。













   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町
誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジョン・ライドンさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪

2012年02月13日

ケンと シロと そしてチビ 第7回


ケンと シロと そしてチビ 第7回 


「カーサン、ただいま」

 ガラガラッと玄関を空けたトーサンは、俺さまが入ってるバスケットを下ろすと、薬の入った紙袋を無造作にカーサンに手渡した。

「チビの奴、肺炎になりかけてたらしい。
眼病にもかかっているかも知れんし、なるたけ暖かくしてやって、
1日に1回、目薬をつけろとさ・・・」

「おやまあ、道理で。
本当に可哀想に。
お父さん、もうバケツの水は、金輪際やめてくださいよ」

 トーサンは、「わかった、わかった」と言いながら、バスケットのふたを開けて、俺さまの頭をやさしくなでてくれた。

「悪かったなあ、チビ。
もう、お前には2度と水なんてかけやしないよ」

 ホントだよ。バケツなんて、もうこりごり。トーサン、頼んだよ。

「お父さん、チビだけじゃなくて、シロにだってもですからね」

「わかってるって。
ノラ、いや、シロにも、もうかけたりはしないよ」

 俺さまは、話をしてる2人の間をするするっとすり抜けて、玄関の隙間から表に飛び出した。

「まあ、チビッったら!
まだ大事にしなくちゃいけないのに。
寒くなる前に帰ってくるんですよ」

 カーサンの声を背中で聞きながら、俺さまは、やっぱりじじいのことが気になっていた。そのくせ、じじいにどんな顔して会ったらいいのか、どんな風に接したらいいのかが思いつかないものだから、俺さまの足取りは、小屋の手前で急に重くなっちまった。俺さまは、隠れることなんて何一つないはずなのに、知らず知らずのうちに抜き足差し足になって、なぜか南天の木の陰に隠れるようにして、じじいの小屋をそっと見ていた。

(おや?シロのヤツがいる。
じじいも、珍しく起きてやがる。
なんか、今日は随分と元気そうにしてるじゃねえか)

 ふたりの会話は、かなりの盛り上がりようだった。

「じいさん、それって本当かい?
本当なら1度、見てみたいもんだな」

「本当だとも、嘘なんかつくもんか。
もうしばらくすると、あの川沿いの土手の並木はな、
まずは、一面の黄金色に染まるんじゃよ」

「へええ、イチョウの木か何かなのかい?」

「いやいや、桜の木じゃよ。
そのうち黄金色が真っ赤に変わって葉が1枚残らず落ちる。
これが、素晴らしいんじゃよ。
真っ赤な葉が川面に落ちて、一艘の小船になって旅立つ。
すると、冬がやってくるんじゃ。
わしはその繰り返しを、もう17回も見てきた・・・」

「ふ〜ん、ドラマチックだねえ。
でも、葉っぱが落ちちゃった後の桜ってのは、
ちょっともの悲しい感じだよね」

「いやいや、それが、そうじゃないんじゃよ。
桜はな、巡り来る春の為に、じ〜っと力を貯めてるんじゃ」

「花を・・、咲かせる為に?」

「そうじゃよ。
黄金色や真っ赤な並木も素晴らしいが、満開の桜並木。
咲いては散る花吹雪。
あれはもう、天国のようじゃぞぉ」

 シロが身を乗り出だして相槌を打つ。

「そりゃあ、見てみたいもんだなぁ」

 俺さまも、河原のあの桜並木のことは知っている。1歳のときは見られなかったけれど、去年と今年は見た。
確かにうっとりするくらい綺麗なんだよな。この話題ならと見当をつけて、俺さまは話の輪に加わることにした。

「エ、エホン、エホン」

 俺さまは、わざとらしく空咳をすると、南天の木陰から飛び出した。さすが野生のシロは、すかさず振り向いたけれど、案の定じじいは、スローモーションのように振り向いている。

「よう、ご両人!
役立たずと宿無しのお似合いのコンビが、
ついに夜逃げの相談か?」

シロの耳がピクピクって震えて、数秒遅れてじじいがゆっくりと笑う。

「おう、チビか。
ヤブ先生んとこから 戻ったんじゃな。
また、あの太い注射を 打たれたんじゃろ?
そのおかげかの?声は幾分、元気になったようじゃな」

「うん、確かに。
少し毛並みもよくなったようだよ。
昨日は、動くのも億劫そうだったものね」

 俺さまは、なるほどと思った。今、シロがじじいに言ったその言葉で、シロが見聞きができなくなっちまったじじいの目や耳になってくれてるんじゃないかと、そんな気がしてきたんだ。それだけじゃない。シロが意識してるかどうかは別にしたて、さっきの桜並木や紅葉の思い出話だって、きっとじじいが忘れかけてたことをシロが思い出させているに決まってる。きっとシロの奴は、俺さまと違ってじじいと波長が合うみたいだな。こんな年になって、やっと気の会う仲間に出会えたってことかな。でも、俺さまは、そんなこと、シロに感謝しない。感謝なんてしちゃいけないんだ。

「おい、シロ、勘違いするなよ!
お前が、ゴミ箱ひっくり返しさえしなけりゃ、
俺さまは、びしょ濡れにならなかったし、
肺炎にだってならずに済んだんだからな」

「わ、わかってるよ、チビ。
それに関しちゃ、悪かったと思ってるよ。
でもね、チビ。
びしょ濡れだったら、ボクもその前の晩に経験済みだけど、
ボクは風邪一つ、ひいちゃいないんだよ。
チビはもう少し体を鍛えた方がいいんじゃないかなぁ。
ねっ、ケンじいさんも、そう言ってただろ?」

 なんだい、じいさんもイタズラそうな顔しちゃって。

「そうじゃなあ。
確かに弱い男は、もてないかも知れんのう。
特に、ミケみたいな お高くとまってるお嬢さんタイプは、
多少強引なくらいのが好みと、わしは踏んどるんじゃがなぁ」

「ええっ、ミケちゃん?
ああ、知ってる、知ってる。
いつもチビが柿の木の枝からじっと見てる裏のあの子でしょ?」

「ほう、チビが?
なんじゃなんじゃ、まだ遠目で見てるだけか?
チビも案外、奥手な方なんじゃなぁ」

 おや?話がとんでもない方に、ずれて来たみたいだけど・・・

「お、おいおい、ちょっと待てよ、ふたりとも。
話が違ってきてないかい?
裏のミケちゃんのことなんて、お前らにゃ関係ないだろ?」

 じじいがなぜか、妙にはしゃいでやがるなぁ。

「いやいや、チビは昨日、一緒に寝ようかと思って誘ったわしに、
偉そうにふんぞり返って、こう言ったんじゃからな。
『俺さまは、3歳の立派なオス猫だ』とな。
木の枝から見てるだけの片思いじゃ、
まだまだ立派なオス猫とは、言えないじゃろうが?」

「ぷぷぷぷっ・・・」

 チッ、今度はシロのヤツが吹き出しやがった。じじいも一緒になって喜んでやがる。

「痛いとこ突きやがる。
こいつは、モウロクじじいに一本取られちまったよ」

 いつもだったら悪態の一つもついて、喧嘩を売ってるはずだろうなあ。でも、そんな俺さまが、今日は道化役に甘んじちまってる。

「ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ、ふぉっ」

 じじい、楽しそうだな。こんなに笑ったの見たのって、いつ以来だろ?でも、よく考えてみたら、なんか急に俺さまがやさしくなっちまったら、ちょっと不自然なんじゃないのかな。こんな俺さまを、じじいもシロも変に思ってやしねえかな。

「はははははは」

 シロも腹を抱えて笑ってるとこ見ると、今回は、何とか隠しおうせたのかもしれないけれど、そうなんだ、今後は俺さまももうちょっと考えなきゃいけねえな。悟られちゃならないんだから、じじいにも、シロにも。そうさ、絶対に悟られちゃいけないんだから。あくまで自然に。いつもの俺さまらしく振舞わなくちゃいけねえんだ。ヤブ先生の言ったあの話は、トーサン、カーサンと、俺さまだけの胸の内に、しっかりとしまっとかなきゃいけねえんだから。

《つづく》





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 児童小説 ケンと シロと そしてチビ


posted by maruzoh at 08:17| Comment(0) | ◆ケンと シロと そしてチビ | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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