ケンと シロと そしてチビ 第4回
俺さまの風邪は、午後になると更にひどくなった。悪寒で震えが止まらない。俺さまは、ままならぬ足取りで、それでも一番暖かそうな縁側の前で横になった。喉の奥がひゅーひゅー言っている。
(トーサンとカーサン、遅いなぁ・・・)
まるで、背中の毛が全部針になっちまったようなゾクゾクッとした震えが定期的に俺さまを襲って、俺さまの意識は、どんどんと霧みたいに真っ白になっていった。
(寒いなぁ・・・)
でも、この感じ、遠い昔に、どこかで・・・
どこだったかなぁ。いつだったかなぁ。
そう、俺さまは、泣いていたんじゃなかったか?寒くって、お腹が空いて、空き箱の中で声を枯らして泣いたんだけど、誰も来やしないんだ。俺さまはもう泣く力もなくなっちゃって、頭の中がだんだん真っ白になっていって・・・
そんな俺さまを、ひょいっと抱き上げてくれたのは、あれは、カーサンの手だった。そうだ、カーサンだ。暖かかったなぁ・・・
(カーサン、まだかなぁ・・・)
そんなことを考えながら、俺さまは、いつの間にか眠ってしまったらしい。
どのくらい眠っていたろう?俺さまは、喉の渇きで目を覚ました。そして、目を覚ましてびっくりした。目の前に白い塊がある。その白い塊からひょいっと顔が出て、こちらを振り向いた。
「こ、このノラ野郎。
俺さまから、離れやがれ・・・」
まさか俺さまを暖めていたんだろうか?俺さまは、ぴったり寄り添ってるノラ野郎を追い払おうと凄んでみたものの、とほほ駄目だ。完全に声がひっくり返っちまって、ちっとも迫力なんて出やしない。
「これは、風邪だね。大丈夫かい?」
「てめえに同情なんか、されたかねえよ・・」
ノラ野郎は、やっぱりいつも通り、柳に風だった。俺さまの言葉にはちっともお構いなしで、俺さまが動けないことをいいことに、額に肉球を当てたりしてやがる。
「鼻が乾きかけてるなぁ。
熱もあるみたいだし、喉もひゅーひゅー言ってるよ。
もう少し暖かくした方が良いかも知れない。
それにしても、トーサンたち、遅いね」
俺さまの尻尾が一瞬だけ膨らんだ。
「ト、トーサンだと?
お前がトーサンなんて呼ぶんじゃねえ!
お前のトーサンじゃないんだぞ。
いいか、トーサンは、俺さまのトーサンなんだからな・・・」
ノラ野郎は、ちょっと驚いたように耳をピンと立てて言った。
「ごめんごめん。
そんなつもりで言ったんじゃなかったんだ」
そして、クスリと笑うと
「もう少し眠った方がいいよ」
ノラ野郎は、俺さまの頭を肉球で軽く押して、また、俺さまを包み込むむようにして、ゆっくりと横になった。
「俺さまに、指図するんじゃねえ・・」
俺さまは、暫くノラ野郎を罵っていたんだけれど、その言葉はだんだんとに勢いをなくして、いつの間にかそれは、独り言みたいな呟きになってたんだろう。それと共に頭がまた、真っ白の霧のようになっていく。
(ノラの野郎、癪だなあ。
でも、あったかいや。
カーサンの手って言うより、じじいと一緒に寝た時みたいだな。
それにしても、トーサンとカーサン、まだかなぁ・・・)
俺さまは、また、眠りの世界にすうっと落ちていった。
《つづく》
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