ケンと シロと そしてチビ 第2回
猫が顔を洗うと雨が降るって?
特に耳の後ろまで洗ってる時は、要注意。すぐに雨が降り始めると、人間たちは言う。トーサンやカーサンも俺さまを見ては、買い物にいくのに傘が必要だの何のってしきりにやっている。でも、そんなの嘘、嘘。お洒落な俺さまは、毎日しっかりと耳の後ろまで顔を洗ってるよ。人間たちの言うとおりなら俺さまの周りは、1年365日、いっつも雨になっちまうよ。
今日も俺さまは、トーサンの自慢の植木の脇でのんびりと、丹念に毛繕いをしている。あのいけ好かない白いノラ野郎は、昨日あれだけトーサンにこっぴどくやられたんだから、しばらくは寄り付かないだろう。そう考えると、お洒落にも気合が入ると言うもんだ。
(ああ、邪魔者がいない夜は、実に落ち着く)
と、その時、勝手口に何かの気配が。
俺さまは、お洒落の手を止めて、にゅうっと背伸びをして辺りを窺った。番犬のはずのモウロクじじいが役に立たない分、こんなところまで俺さまが気を使わなきゃならないって訳だ。
カーサンの声が、途切れ途切れに聞こえてくる。誰か、来てるのかな?俺さまは、カーサンの様子をうかがう為に勝手口に近づいていった。
「生きてくためにゃ残飯漁りもしなきゃならないんだろうけど、
片付けるのは、いつもアタシなんだからね・・・」
なんだとぉ?まさかあのノラ野郎、また来てやがんのか?
反省の色ってのが、全く見られねえヤツだ。
でも、今度はカーサンに怒られてやがる。
へへん、ザマーミロだ!
でも、怒ってるににしちゃカーサン、何かこう、迫力不足じゃない?
ってよりカーサン、なんか白ノラに、やさしく語りかけてないか?
「あんたが遊びでゴミバケツひっくり返してるわけじゃないのは、
あたしだってわかってるよ。
だから、これから毎晩、こうやってここに餌を置いとくから、
バケツをひっくり返さずに、食べ終わったらさっさと帰るんだからね。
いいかい、トーサンを見かけたら、すぐに逃げるんだよ」
え―――っ?
なんだって?
冗談じゃないぞ!
カーサンが毎晩餌をあげるって?
あのいけ好かない白ノラ野郎に?
その台詞を聞いた途端、俺さまは一瞬でカーっと頭に血が上っちまって、白ノラ野郎めがけて飛びかかっていた。
フ―――ッ!
アオ―――ンッ!
「チ、チビ、やめなさい!」
カーサンの制止をすり抜けて突進した俺様をノラ野郎はすんでのところで身を翻してかわしやがった。勢い余った俺さまは、と言うと
ガラガラ――ン
ゴミバケツに激突。見事、バケツををひっくり返しちまって、そこいら中、昨日と同じゴミだらけ。
(あ〜あ、やっちまったよ・・・・)
俺さまが困ってカーサンの顔を覗き上げた時、昨日と同じように勝手口を開けたトーサンの怒声と一緒に、大量のバケツの水が、
ザバァザァザァッ!
あれだけ丹念にお洒落した俺さまの頭から尻尾の先までを、すっかりびしょ濡れにした。
クシュン!
俺さまが情けなくくしゃみをしたのをトーサンとカーサンがまん丸の目で見ていた。
《つづく》
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