〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第75回 MARUZOHくんの叫び
「ま、まさかもう1丁隠し持っていたとは・・・」
小型拳銃に気づいたゲッベルスが一歩後退りました。しかし、ガルル皇帝の手にした小型拳銃の銃口は一直線に斜め上、皇帝自身のこめかみに向かっていきます。MARUZOHくんが身を乗り出して叫びました。
「や、やめるんだ、ガルルさんっ!」
皇帝の手がピクリと反応します。
「そんなことをしたって、何の解決にもならない。
ましてや、そんなことが罪の償いなんかになるもんか。
あなたがやるべきことはそんなことじゃない。
あなたには、まだまだやるべきことがたくさんあるはずです」
中途で止まった右手の銃口を天井に向けたまま、皇帝が尋ねました。
「私にやるべきこと?」
「そうです、あなたには皇帝として帝国民を守る義務がある。
あなたを信じて乗船した人たちを守る責任が。
そう、今のあなたが帝国民を守るためにできるただ一つのことは、
世論からの批判、誹り、憎しみをその一身に受けて、
帝国民のために法廷で真実を証言することではないのですか?」
「・・・・・・」
皇帝は無言のままでしたが、拳銃を握った右手は、まだじりじりとこめかみに近づきはじめています。
「あなたは本当の自分を取り戻したんじゃないのですか?
弱かった自分と決別をしたんでしょう?
だからこそ帝国民に謝罪と、感謝をしたんです。
だったら新しい自分として、またやり直すべきです。
あなたが今できる精一杯のことを。
自決による最期なんか、格好をつけているだけで、
ただ目の前の現実から逃げ出そうとしてるだけじゃないですか。
そんなの、今までの芝居がかったガルル皇帝と全く同じです。
弱さや脆さで人を傷つけていたあなたと何ら変わらない。
いや、それどころじゃない。
正一くんの病状から目を逸らしたあの日のあなたと同じだ。
ガルルさん、あなたは、また逃げるんですか!
あなたは・・・
あなたは、正一くんと奥さんの為にも、もっと強くなるべきだ。
いや、強く生きなければならないはずです」
こめかみに達しようとしていたガルル皇帝の右手が再び止まり、そして暫くすると、それはゆっくりと脱力したように下ろされてゆきました。皇帝はひとつ大きく息を吐き出すと、小型拳銃をデスクにコトリと置いて、傍らのマレンゴに目配せをしました。及び腰で拳銃を受け取ったマレンゴが、ちらりとMARUZOHくんを伺います。MARUZOHくんも大きくふうっと息をついて、額の汗を拭いました。
「ガルルさん、始まりなんです。
これからが、本当の始まりなんですよ」
《つづく》
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