やさしいあなたに、そうでないあなたにも。
                        いろんなあなたに、こころの言葉。












   【maruzoh's profile】
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名 前/maruzoh こと 熱田丸蔵
出没地/和光、富士宮、麹町 誕生日/9月7日 乙女座
好きなもの/こども、詩、絵、童話、小説、音楽、お酒、美味しいもの、犬、野球、寺、神社、花、ギター、家族
とても影響を受けた人/灰谷健次郎さん、鹿島和夫さん、ドン・カ・ジョンさん、かしわ哲さん、PANTAさん、ジャー・ウォブルさん、小澤征爾さん、帚木蓬生さん
maruzohより一言/運も、人も、夢だって、欲しがり過ぎると逃げてっちゃう。幸せは、み〜んな天下のマワリモノ。みんなで仲良く分け合おう♪


2012年01月20日

【短編】僕がテルテル坊主を逆さに吊るす訳


【短編】僕がテルテル坊主を逆さに吊るす訳  


 どこでどう調べだしたのか、初めて住む街の少年野球チーム「ダイナマイツ」から、見ず知らずの僕に監督の要請が来たのは、僕が大学野球を終えて2年後の24の時だったから、かれこれ5年近く彼らと付き合っていることになる。
 それまでの「ダイナマイツ」と言ったら、常勝軍団ならぬ、常敗軍団。野球経験が浅いどころか、野球経験が無いに等しいような選手たちの親が監督、コーチを努めていて、「野球を楽しむ」というのをモットーのチームだった。ところが、数年にも渡ってチームが勝利から遠のくとかえって子供たちは、野球を楽しめずにいる・・と親たちの誰もが思うようになって、大学野球まで経験したらしいという僕に白羽の矢が立ったということらしい。
 ただ、僕が教え始めたからといって、チームが急激に強くなるほど野球は甘いものではなく、他チームと遜色の無い程度に練習の質を上げて、練習量を増やすことによって、やっとこの1〜2年、勝率が5割を超えてきたに過ぎない。でも、子供たちの中に巣食っていた「出ると負け」の頃の負け犬根性だけは、僕はやっと払拭できたのではないかと思っている。これからの時期が、一番大切な時期。子供たちもその気になりだしたし、親たちの意識が俄然と変わってきたと僕はしっかりした手応えを感じている。
 だからこそ、僕はここで練習量を増やした。年末年始を除く土日祝は、間違いなく1日練習。へたをすれば、平日の夜間も自称スランプに陥った子供たちが、アパートのドアを叩くなんてのも少なくはないから、だんだんと僕にはプライベートというものが、あってないような生活になっていった。

 そこで、本題。そのせいだけではないと思いたいのだけれど、今年29歳を迎えるに至っても、カノジョができない・・・
 知り合いと言えば、選手である子供たちのお母さんや町会の顔役、スポーツ用品店の親父さんと、レンアイの対象からは遥かにはみ出てしまった年齢層の方々ばかり。僕にだって、出会いがなかったわけじゃないし、レンアイ経験のひとつやふたつはあるけれど、土日祝の昼間が常に練習というのは、致命的。

「私と子供の野球のどちらが大切なの?」

お約束の決まりきった台詞で、いつもジェットコースターは下り坂に向かってしまう。急降下・・・
 取り巻きの中には、1月おきに見合い写真を持参するツワモノも現れる始末。いつの日にか、僕の麦茶の水筒とおにぎりをグランドに届けてくれるような、子供たちに共に声援を送ってくれるような、そして、子供たちのマドンナになるような、そんな素敵な人が現れないかなぁ・・と、ずっと思っているのだけれど、世の中、そんな甘いもんじゃあない。

「口を開けて待ってるばかりじゃ、レギュラーは取れないぞ!
レギュラーや栄光は、練習で勝ち取るものだ!」

 子供たちへのそんな自分の台詞が、身につまされる。そう、待ってるだけじゃ、何の進展も無いんだ・・・と、そう思いつつも僕の土日は、相変わらずに過ぎていく。特に少年野球の大会の密集する春は、抽選会やら開会式やらでてんてこ舞いなんだ。今日も日曜の夜だってのに、シャワーも浴びないままユニフォーム姿で、
市営グランド内の大会議室で抽選会。あ〜ぁ、飯だってまだ食ってやしないんだぜ・・・
 でもこの大会、5市2町で争う、この地域最大の権威ある大会。これだけ広範囲だと、日頃見慣れないチームもたくさん出場してくる。
 1回戦の対戦相手が同じ市同士にならないよう変則的な抽選を終えて席について、対戦チームに眼をやる。「ビーバーズ」。まあ、そこそこの戦いはできるだろう。相手の監督に挨拶でも・・・と思って、眼を凝らして僕はびっくりした。

「おいおい!渡瀬じゃないか!」

 そこには、大学時代の野球部のマネージャー、渡瀬がいた。僕がひそかに憧れていた、渡瀬がいたんだ。学生時代の天真爛漫な雰囲気に、ちょっとだけ大人の落ち着きが加わっていた。渡瀬は、変わらない笑顔で答えた。

「あらぁ!久しぶりねえ!
あんたの噂、最近この地域でよく耳にするわよ。
ダイナマイツの鬼監督って」

「こんな優しい監督捕まえて鬼はないだろ・・・
それはそうと、なんだ?
お前、女性監督でもやってんのか?」

「まさかぁ!今日だけの代打よぉ。
抽選だけのピンチヒッター。
本業は、スコアラー兼マネージャー」

「へえぇ。子供が野球やってるんだ?」

「なに言ってんのよ。
子供なんているはず無いでしょ?
花も恥らう独身の私に・・・」

「えっ?」

 渡瀬は、確か卒業してすぐ結婚したんじゃ・・・

「バツイチよぉ。若すぎたのかしらね。
半年で別居、すったもんだあって、
一昨年にめでたく離婚と相成りました」

「そ、そりゃあ、まずいこと聞いちまったな・・・」

渡瀬は、やっぱり屈託の無い笑顔で僕にこう返した。

「いいのよ。もう慣れてるもん。
でもやっぱり、野球忘れられないんだ。
あの頃、大変だったけど、楽しかったもんね・・・」

 渡瀬は、初めてちょっぴりさびしそうに笑った。

「でもさ、子供たちを教え始めて、
野球を始めたばかりの頃を思い出したり、
野球の違った楽しさも見つけたろう?」

「そりゃぁ、もう!
今までボールを捕れなかった子が、
取れるようになった時なんて、感激よねえ」

「そうそう。
ウチの4番の子、最初の頃なんて、
3塁に向かって走り出すような子だったんだぜ。
それがこの間、でっかいサヨナラホームラン打ちやがって・・・
で、その後『監督のおかげです、ありがとう』だってさ。
いやあ感激!俺、泣けてきちゃったよ。
やっててよかったって、本当に思った・・・」

「でなきゃ、日曜の夜までやってられないわよね」

「そりゃそうだ」

 僕らは大きな声で笑いあった。僕の好きだったそのままの渡瀬が、7年の時を経ても、そこにいた。そして、大会の公平を期すためにも大会1回戦の対戦がすんだ後の最初の「雨降りの土日」、1人者同士、2人で飯でも食おうかということになった。お互い、雨降り以外は、練習を休めないから・・・

 ダイナマイツの選手諸君。君たちには申し訳ないけれど、監督は大会が終わってしばらくの間、金曜の夜からテルテル坊主を逆さまにして吊るしておくことにします。訳は聞かずに許してください。


《おわり》


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posted by maruzoh at 10:52| Comment(0) | ◆熱田丸蔵 ア・ラ・カルト | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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