〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第74回 皇帝最後のメッセージ
ゲッベルスとマレンゴの問いかけで、再び艦内は静まり返ってしまいました。帝国民の一人一人が、なぜ自分がここにいるのかを自問自答しているのです。確かにそうなのです。ゲッベルスが機関室でMARUZOHくんらに言ったように、今まで自分たちはガルル皇帝の甘言に心の隙を衝かれ、皇帝の意のままに流され、この船に乗せられたような気がしていたのですが、この船「千年帝国」への乗船を選択し、帝国民として生きていこうと決断したのは、紛れもなく自分自身だったということを誰もが思い出したのでした。そして誰もが、その決断と今までの自分たちがしてきた行為が、許されるべきではなかったと気づいたのでした。
「俺たち反乱軍は機関室で誓ったんだ。
この戦いは、自由への戦いではないんだと・・・
これは懺悔、禊ぎの為の戦いだったんだ。
俺たちが真の自由を勝ち取るのは、
白日の下で裁かれ、そしてそれを償ってからなんだ」
そう呟いたマレンゴの頬を、一筋の涙が伝って落ちました。泣き虫と言われたゲッベルスだけではありません。皇帝執務室前に押し寄せた帝国民のほとんどが悔恨の情にすすり泣いています。
「あ、あれはなんだ?」
重苦しい空気を破ったのは、廊下からの叫び声でした。さすが元諜報部員です。ピンと来たヒムラーが部屋から飛び出して、胸ポケットから小型の双眼鏡を取り出すと窓から海原を眺めました。
「や、やはり水上警察隊だ、相当な数だ。
おや、先頭の船に赤いマントが見える。
ココロニアの王様まで一緒に来たようだね。
あっ、タカシくん、君のお父さんも一緒のようだよ」
それを聞いてタカシくんが、弾かれた様にヒムラーのそばに駆け寄って行きました。それを小さな笑顔で見送ったMARUZOHくんが、ゲッベルスとマレンゴの間を縫ってガルル皇帝の前に立ちます。
「ガルルさん、どうしますか?
あなたにはもう、警察と戦う理由も無いでしょう。
後は・・・」
皇帝はMARUZOHくんを見据えてからゆっくりと立ち上がると、涙をさっと拭いマイクに向かいました。眉間には再び深い皺が刻まれていますが、その皺の一つ一つにはこれまでのただ獰猛なだけとは違う、海の男の雄々しさと皇帝の気高さがありました。ガルル皇帝は大きく息を吸い込むと、いつものように右手を懐に入れるナポレオンのポーズで静かに語り始めました。
「親衛隊並びに帝国民諸君。
私だ、ガルル皇帝だ。
我が千年帝国は水上警察に完全に包囲された。
もはや我々に勝機は無いに等しい。
そこで、私からの最後の命令、
いや、最後の願いを聞いて欲しい。
親衛隊員よ、武器を捨て、マストに白旗を掲げよ。
我々全員が無血で投降し、裁きを受けるのだ。
千年帝国は、今ここに解体、消滅する。
そして、それによって、それぞれ一人一人が、
真の自分自身を取り戻して欲しい。
無論、全責任は最高責任者の皇帝である私にある。
君たちは、私の命令に従っていただけだ。
当局には、ありのままに、そう証言しさえすれば良い。
私さえいなければ、君たちは道を踏み違えることも、
自らの心を傷つけ、思い悩むことも無かったろう。
私が、全ての、諸悪の根源なのだ。
君たちに、心から詫びたいと思う。
本当にすまなかった。
それと共に、今までこんな私によくぞ付いてきてくれた。
親衛隊並びに帝国民全員に心から礼を言おう。
これまで、ありがとう。
そして、さようなら・・・」
語り終えて、懐からゆっくりと引き抜かれたガルル皇帝の右手には、もう1丁の小型拳銃が握り締められていました。
《つづく》
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