〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第70回 皇帝の罪 心丸の罰
しんと静まり返った大海原。千年帝国全艦のスピーカーから流れた、ガルル皇帝がまさに思い出と共に絞り出したような声は、帝国民やMARUZOHくんらの心に大きな驚きと悲しみを残し、そして潮風に乗って水平線の彼方に消えてゆきました。
「私のせいで船底をカギ裂きにされてしまった心丸は、
徐々にその巨体を海中に沈めていったんだが、
私はとんだ失敗をしてしまったんだ・・・」
「し、失敗って?」
タカシくんの問いかけに、皇帝は無理して笑顔を作りました。
「ああ、とんでもない失敗だ。
さっき私は、この船を海溝に沈めてしまうと言ったね。
それは、証拠を消し去ってしまうためだとも言った。
ところが、この時の心丸の沈む場所は、海峡の岩礁地帯。
それも世界有数の危険地帯ときている。
水面下は船底ぎりぎりの岩場で、極めて浅い海ということだ。
つまりは・・・」
「丸々そのまんま、証拠が全て残ってしまったということか・・・」
マレンゴの言葉に皇帝はゆっくりと頷き続けました。
「近くを航行中の貨物船がSOS信号を受信してくれて、
幸い心丸のクルー8人は全員無事救助された・・・
でも、汚い私の考えはやはり許されるべきものではなかったんだ。
不慮の事故を装い多額の保険金で心丸を再建するという、
保険金詐欺が実行できるのはあの地域しかないと、
私はそこまで考えていたのだから・・・」
ゲッベルスが口を開きかけましたが、横に小さく首を振ると溜息をついてまた閉じました。
「沈没に関する調査が進むに従って、
残された証拠との矛盾点が次々に露見していき、
ついには、大規模な密輸事件であるとの疑いで、
我々はF国に連れ戻され、警察当局に拘留されたんだ。
そして、裁判の結果、私以外の7人への実刑判決が下った。
F国はご存知のとおり、麻薬は相当な厳罰だ。
仲間はばらばらに各地の刑務所に投獄されたらしい・・・
しかし、あろうことか船を沈めた張本人のこの私は、
密輸を未然に防いだ英雄として、無罪を言い渡されたんだ。
信じられるかい、この私がだよ。
そりゃあ、麻薬の原料の密輸なんて、あってはならないことだ。
でも、行き過ぎたとは言え、仲間の善意、決意を踏みにじり、
その上、心丸という仲間みんなの夢をぶち壊した私が、
のうのうとしていられる、しかも英雄だなんて。
な、仲間は、檻の中だっていうのに・・・
私は気が狂ってしまいそうだったよ、本当に。
荒れ果てて、酒に溺れて・・・
日本にも帰らなかったそんな私に手紙が届いたんだ。
居所がわからずいろんなところを経由したんだろう、
消印は随分前の日付だった。
そう、日本の妻からの手紙だよ」
《つづく》
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