〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第65回 M国からの電話
ガルル皇帝はこの狭い皇帝執務室に居ながら、その視線はまるで、何処か遥か遠い場所を見つめているようでした。
「あの日・・・
秋だって言うのに、馬鹿みたいに暑かったあの日。
私はエアコンも無い心丸事務所のプレハブで、
朝から汗だくになって、あちこちのお得意さんに電話を架けていたんだ。
ようやく一段落ついた午後、電話が鳴った。
心丸の仲間からの国際電話だった。
奴らは東南アジアのM国から積荷を積んで
出航しようとしているところだったんだよ・・・」
☆
「もしもし、こちらは快晴、海も実に穏やかだ。
予定通りの積荷を載せて心丸は、
M国を定時の10時00分に出航予定だ」
「了解した。
無事の航海を祈る。
みんな変わらずに元気か?」
「ああ、相変わらずだ。
二日酔いが2名ほどいるがな。
はっはっはっはっは・・
ところで・・・
正ちゃんの様子は、どうだ?」
「うん・・・
こちらも、相変わらずと言ったところかな。
薬が効いているのか、今は落ち着いているようだ・・・」
「しかし、薬で抑えてるだけで、
治ったわけじゃないんだから、
お前たち夫婦も気が休まらんだろう・・・」
「・・・・・・・・」
「す、すまない。
余計なことを言ってしまったようだ。
悪気はないんだ、許してくれ。
俺達も・・・
俺達も、正ちゃんの力になりたいんだ・・・」
「いや、いいんだ。ありがとう。
気にしちゃいないよ・・・
でも、物事にはな、
どう足掻いたところで、
どうしようもないってことが、あるんだよ。
俺達は正一と残された時間を・・・」
「な、何を言ってるんだ、馬鹿野郎っ!
諦めちゃ駄目だ。
親のお前が、そんなんでどうするんだ。
正ちゃんは、懸命に頑張っているんだぞ!
絶対に、絶対に諦めちゃ駄目だ。
実は・・・
お前には内緒にしていたんだがな、
俺達に、ちょっとした考えがあるんだ。
お前も知っている通りこの積荷は、
このM国からF国に向って、荷を積み替えてから日本に戻る。
で、そのF国でな・・・
い、いや、なんでもない。
なんでもないんだ・・・・
つまらん話をして、すまなかった。
じゃ、じゃあな・・・」
☆
「F国で・・・、という言葉を最後に、
奴からの電話は、がちゃりと切られてしまったんだ。
でも、その時の奴の台詞を反芻する度に、
私の心の中には、きな臭い不安がむくむくと頭をもたげて、
背筋には冷たいいやな汗が幾筋も流れ出してしまい、
胸騒ぎを抑え切れなかったんだよ」
《つづく》
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