〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第61回 皇帝の逡巡
「わ、私たち・・・って?」
「まさかあの、写真の奥さんとお子さんですか?」
ガルル皇帝の言葉をゲッベルス、MARUZOHくんが順に問い質しました。皇帝はそれを右手で制すと、それに合わせて頭(かぶり)を大きく振ります。
「おいおい、小型と言ったって、バラ積みの貨物船だぞ。
ほとんどが国外の航路で載貨重量だって5000トン近くある。
乗務員も最低でも7〜8人は必要だ。
家族3人で和気あいあいと出来るようなそんな甘い仕事じゃない。
それに大体、貨物船を一隻どれだけすると思ってるんだ。
億単位だぞ。
個人で買えるほどの資金なんて、当時の私にはとてもありゃしない」
「と、言うことは、仲間数人で会社を作ったって訳か?」
マレンゴの言葉に皇帝は振り向き、そして頷きました。
「まあ、そんなところだ。
もともとトランパーというのは、
浮浪者や流民を表す俗語から来た呼び名だ。
定期航路を持つ大企業のライナーに対して、
条件次第で世界中何処にでも行く不定期船、
そいつが、トランパーって訳だ」
「なんか、昔ながらの海の男って、そんな感じですね」
MARUZOHくんの言葉にガルル皇帝が、はにかんだ笑顔を初めて見せました。
「ああ、海賊がよく出る航路や、
気象条件、海流の厳しい航路。期限の迫った荷。
私たち心丸は、みんながやりたがらない仕事を進んで受けていた」
「では、心丸は順調に業績を上げてたわけですね。
それをどうして、沈めることなんかに・・・」
MRUZOHくんを遮って、マレンゴが言いました。
「海の男だなんて格好はつけちゃいるが、
所詮、金の為ならどうとでも動く業突張りどもの集まりだ。
どうせ金の絡みの内輪揉めだろ?
とりわけ金に汚いガルルのことさ。
大方、仲間割れとか、裏切りに決まってる」
こんなことを言われたならば、今までのガルル皇帝なら青筋を立てて怒鳴り散らすか、大声で「ふははは」とばかりに笑い飛ばしたことでしょう。ところがガルル皇帝は、俯いたまま黙して語ろうとしません。
「ほら、図星をつかれてぐうの音も出ないじゃないか。
まあ、金の亡者どものドロドロした血生臭い話なら、
千年帝国で聞き飽きているし、胸糞が悪くなるだけだ。
そんなんなら俺は、無理して聞きたくもないな」
皇帝がマレンゴを睨み付けました。その眼には、力は籠もっていますが、不思議と先ほどまでのような
邪気が含まれていないような気がするのは、気のせいでしょうか。
そして、誰にともなく皇帝は、こう呟きました。
「やはり、この話は、ここで止めておこう・・・
マレンゴの言うとおりかも知れん。
解ってもらおうとも思わんし、弁解もしたくない。
例え私がどんな話をしたところで、私が許されるはずもないのだし、
もう、マレンゴの言ったとおりということで良かろう・・・」
MARUZOHくんがガルル皇帝の前に歩み出ました。
「駄目です、ガルルさん。話してください。
この船に乗っている人たちの為、
そして何より、貴方自身のけじめの為にも、
ここでまた、眼を逸らしちゃいけないっ」
MARUZOHくんの脇にタカシくんが走ってきて、皇帝を見つめています。
「お、おじさん・・・」
《つづく》
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