〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第59回 1枚の写真
ガルル皇帝はその大きな拳でタカシくんの両肩を掴んだまま、次から次へと溢れでる涙を拭いもせずに、タカシくんの顔を見つめ続けて、そして、途切れがちにこう言いました。
「こ、小僧。
お前は本当に、不思議な奴だな・・・
ふふ、お前に、さっき言われたよな。
感情が溢れだして形になったのが、涙や、笑顔になるんだと。
でも、我輩はな、その時も言った通り、
もう自分の中には、喜びや哀しみの感情、
特に涙などというものは、
とっくの昔に枯れ果ててしまったものだと、そう思っていたんだよ。
ところが、本当にお前は、不思議な奴だ。
その枯井戸みたいになってしまった我輩の心に、
また・・・」
MARUZOHくんも、マレンゴも、ヒムラーも、ゲッベルスも、そして、廊下の群衆も、誰もが言葉を失っていました。しんとした室内に、たくさんの息遣いだけが聞こえています。
その静寂の中、静かに語りかけたのは、やはり、ガルル皇帝の思いがけない一言でした。
「小僧、お前は、それをどこで?」
周りの誰もが気がつきませんでしたが、皇帝が目配せをした先、タカシくんの手元には、1枚の写真が握られていました。
マレンゴに導かれたMARUZOHくんら2人がこの皇帝執務室に入ってきた時、タカシくんがしゃがみこんで見ていたのが、この古びた写真だったのです。ココロニア船団の帝国母艦スクリューへの金網攻撃の揺れで、この部屋の床と言ったら、書棚から落っこちた本やらファイルやらで、今も足の踏み場も無いほどなのです。
「この部屋の、床に落ちてたの。
散らばっているどこかの本の中に、
挟まっていたんじゃないのかな?
でも、きっと、おじさんの
大切なものじゃないかと思って、
僕、拾っておいたんだ・・・」
タカシくんは、一旦、言葉を切って
「その子は・・・
おじさんの子ども?」
と、その写真をガルル皇帝に差し出しました。
暫く躊躇しましたが、ガルル皇帝は写真を手にとって言いました。
「ああ、そうだ。
おじさんの、子どもだよ」
「その子の横にいるのって、
おじさんと、その子のお母さん・・だよね」
ガルル皇帝は、タカシくんの言ったその人物を見つめました。丸刈りのやんちゃそうな子どもの横で、大きな口を開けて笑う褐色の肌のスポーツマン風の男。紺のポロシャツがとてもよく似合って、白い歯が眩しいくらいです。そして、その子どもを挟んで反対側には、つばの広い真っ白な帽子とワンピース姿。とっても優しそうな女の人が写っています。
「ああ、おじさんと、
おじさんの、奥さんだった人だよ。
もう・・、10年以上も前の、写真だけれどね・・・」
《つづく》
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