〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第58回 皇帝の涙
「MARUZOH、き、貴様、
まさか、あのことを知っているのか?」
なぜでしょう。MARUZOHくんの問いかけは、何気ない質問だったはずなのに、ガルル皇帝が意外なほど動揺しています。
それを見てMARUZOHくんは、くすりと笑いました。
「いえ、僕は何も知りませんよ。
貴方がさっき1隻目の船の話をした時、
とても辛そうな、悲しそうな眼をしたのが気にかかったんで、
ふふふ、思わせぶりにカマを掛けてみたんですよ。
でも案の定、やっぱり何かあったんですね」
それを聞いたガルル皇帝は、
「ふ、ふはは、
ふはははははははははははは・・・・」
何がおかしいのか突然、狂ったように笑い始めたのです。
「今のMARUZOHの台詞と言い、
さっきのマレンゴのスイッチの件と言い、
よくぞ我輩を謀って、騙してくれたものだな。
詐欺や騙しは、我輩の専売特許のはずだろうに。
ふはははははははは・・・
人は見掛けによらぬと言うが貴様ら、
充分に詐欺師の素質を持ち合わせているわい」
ひょっとするとこれは、ガルル皇帝流の褒め言葉なのかもしれませんが、いくら詐欺師の素質があると言われても、普通の人ならあんまり嬉しいものではありませんね。
返事に困ったMARUZOHくんに代わってマレンゴは、もう1度皇帝の執務デスクに戻ると、
「俺も興味があるな、その話。
きっと、俺や廊下の連中だけでなく、
このマイクの向こう側・・・
帝国の全員が知りたがっていると思うぜ」
そう言って、蛇腹になっているマイクをガルル皇帝の方に向けました。ガサッというノイズが、艦内中に響きました。ヒムラーもそれに続きます。
「その話は、諜報部員だった私も知らない。
いや、恐らく親衛隊だって、誰も知らないだろう」
ゲッベルスも身を乗り出しています。
「そ、そうだともガルル。
私たち元千年帝国民には、
お前がどうしてこの千年帝国をそんな行く末に導こうとしていたか、
それを知る権利があるはずだ」
ガルル皇帝は、ゲッベルスを睨み付けてから、廊下の十重二十重の群衆の方を振り返りました。群集はその一瞥で一瞬たじろぎましたが、今までとは違う強い目の力で皇帝を見つめ返します。
「貴様らに語る過去などないわ。
我輩はな、己の欲望を満たす為に、
使い切れないほどの金が欲しかっただけだ。
その為に、貴様らを利用した。
ただ、それだけのことよ」
言葉とは裏腹にガルル皇帝の言葉は、とても虚ろでした。そんな皇帝を見たタカシくんが、ふいに皇帝の前に立ちました。全く意外でしたが、皇帝はやさしそうに微笑みかけました。
「小僧、またお前か?
ふふふ、今度は何の質問だ?」
タカシくんは、首を横に振って言いました。
「違うよ、質問なんかじゃない。
僕には分かるんだ、おじさん、本当は・・・
本当は、思い出したくないんでしょ?
思い出すと泣きたくなっちゃうんでしょ?
でも、いいんだよ、泣いたって。
もう、我慢しなくたって・・・」
「な、何だとぉ!」
「僕、見つけてしまったの・・・」
その言葉を聞くやガルル皇帝は、真っ赤な顔をしてタカシくんに掴み掛かりました。誰もが「危ない」と思いました。特にヒムラーは、構えているライフルの引き金を弾き掛けたのですが、次の瞬間そこにいた誰もが、まさに、我が目を疑いました。
なぜなら、タカシくんの肩を掴んだきり動かない皇帝の瞳から、大粒の涙がぼろぼろと溢れ出しているのです。
《つづく》
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