〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第54回 皇帝の描く未来像
マレンゴの策略は、まんまと当たりました。艦内中に流れているガルル皇帝の声を帝国民の誰もが、一字一句聞き漏らすまいと耳をそばだてて聞いています。
階段を駆け上がろうとしていた親衛隊員たちは、踊場で足を停め、ライフルを下ろして聞いていますし、スクリューの修理に悪戦苦闘していた機関室長も手を休めてスピーカーを睨みつけています。
なぜならこれこそが、帝国民の前で初めて露にした恐らくガルル皇帝その人の本性、真の姿であり、今まさに、その素のガルル皇帝が、帝国の未来について、つまりは、自分たちの未来について語ろうとしているのです。
しかし、それにしても先ほどの「我輩は誰も信じないし、信じたことも無い」という話や、「民は皇帝を生かすためにだけ存在する」という話は、帝国民にとっては、本当にショックだったことでしょう。ヤミ金融や振り込め詐欺、絵画やブランド物の贋作製造、千年帝国の収益自体が不法行為によるものなのですから、帝国民だって皇帝が全くの善人だとは、思ってはいません。
でも、ガルル皇帝が、行き場の無かった自分や家族たちをどんな手段であれ救ってくれたのは事実ですし、誰しもが少なからず皇帝に恩義を感じていました。
しかも、皇帝はことある毎に、「自分たちは、大きさの違いはあれど、同じ脛に傷持つ者同士力を合わせてこの船を、この国を守りあっていかねばならん」と、そう言ってきたのですから、みんな心のどこかで、胡散臭いとは思いながらも、ガルル皇帝のことを信じていたかったのです。
「理想の未来像の決定的な違いですって?」
ガルル皇帝に聞き返したMARUZOHくんの声も、もちろん全艦の帝国民に響き渡っています。千年帝国の人々は、敵国ココロニア国の王子の言葉をはたしてどのように受け止めているのでしょうか。
「そう、とてつもなく大きな違いだ」
皇帝は、大きく頷きながらそう応え、続けました。
「なぜならば、千年帝国には近い将来はあっても、
遥かなる未来など、ありはしないからだ」
「未来が、無いだって?」
その言葉にびっくりしたのは、MARUZOHくんだけではありません。艦内の帝国民全員が、我が耳を疑いました。ガルル皇帝は、何を言わんとしているのでしょう。
「そう、未来など、無い。
いや、勘違いしてもらったら困るが、
我輩の未来は、いついつまでも燦然と輝いておる。
未来が無いのは、この船と、帝国民だけだ」
「・・・・・・・」
MARUZOHくんは、声を失ってしまいました。艦内もシンと静まり返っています。
「なぜかだと?
ふはは、よおく考えてみればわかるはずだ。
我輩たちはれっきとした犯罪者で、追われる身なのだよ。
警察だって馬鹿や間抜けばっかりじゃない。
我々の尻尾を掴もうと、躍起になっているに違いない。
所詮、こんなヤミ金や振り込め詐欺なんてものが、
10年も20年も上手くいくはずなど無かろう。
だとしたら、どうするか?
ケツに火が点いてからじゃ、遅いんだよ。
ふふふ、MARUZOH、貴様だったらどうする?」
MARUZOHくんは、黙して語りません。じっと皇帝の眼を見据えています。
「ふはは、思いもよらぬか?
ぬくぬく育った平和ボケの甘ちゃんには、そら無理だわな。
では、冥土の土産に教えてやるわ」
皇帝はピストルを構えなおして言いました。
「頃合を見計らって、我輩はこの船の帝国民たちを・・・」
「この船の帝国民を?」
鸚鵡返しに聞き返すMARUZOHくんの声は微かに震えています。
「切り捨てた上で、この船そのものを、消し去る」
「け、消し去るって・・・」
「沈めてしまうのよ、証拠隠滅のために。
日本海溝でも、マリアナ海溝でもいい、2度と上がらぬ海の底にだ。
この千年帝国など我輩にとっては使い捨て国家そのもの。
トカゲの尻尾切りみたいなもんさ。
そして我輩はまた新たな国家を作り、同じ事業を始めるのよ。
まあ、その際には貴様の親父のやり方も、
多少は参考にさせていただくとしようか。
ふはは、ふははははははは・・・」
《つづく》
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