〜憧話 こころ王国 episode 2〜
王様 対 皇帝 第46回 MARUZOHの違和感
千年帝国母艦は、豪華客船とまではいかないまでも、中型クラスの規模の客船を改造したと言うだけあって、さすがにこれが実に広いのです。その船底の機関室から最上階の架電室までを、小学1年生のタカシくんの隠れた麻袋を担いで昇るのですから、マレンゴは6階の踊り場に差し掛かった辺りで、もうすっかり汗だくのフラフラになってしまいました。
その堂々とした態度とは裏腹に、色白で小柄なマレンゴはゲッベルス同様、あまり運動が得意ではなかったのです。ふうふう言っているマレンゴを、袋の中からタカシくんが気遣います。
「マレンゴのおじさん、大丈夫?少し休んだらどう?」
「そうですよ、マレンゴさん。
少し休んで、後は僕が代わりましょう」
タカシくんとMARUZOHくんは2人してそう言うのですが、マレンゴは頑として譲りません。
「俺たちに残された時間は、限られてるんだぞ。
おいそれと休んでる訳にはいかないさ」
「でも、だったら僕が代わりに・・・」
「いや、駄目だ。
もしこの企みが露見して敵に追われることになったとしよう。
機関部に長年いる俺にとって、
この船は、勝手知ったる我が家同然、
それこそ親衛隊の知らない船の隅々まで知り尽くしているさ。
タカシくんを背負っていたって、充分逃げ切る自信はある。
でも、初めて尽くしのMARUZOHくんじゃ、そうはいくまい。
見つかったら最後、2人まとめて檻の中が関の山さ。
この船の造りは、各階ともほとんど同じだからな。
乗って間もない奴は、一人残らず迷子になっちまうんだ」
マレンゴの言うのも、もっともです。ましてや、MARUZOHくんは、ほんの30分ほど前に、バリアを無我夢中で越えて到着したばかりなのです。そんなMARUZOHくんからすれば、さっきから行き来している金属の狭くて薄暗い通路が、何処に行ってもまるで同じように見えてしまっても、何の不思議もないはずです。
「そ、そうか」
MARUZOHくんが、突然呟きました。
「わかってくれたかい?」
マレンゴの優しい言葉に、MARUZOHくんは頷きました。
でも、さっき口を衝いて出てしまった言葉は、マレンゴの説明に対してではありませんでした。実は、MARUZOHくんは、この母艦に乗船して以来、ずっと抱えていたもやもや、そう、妙な違和感が、いったい何だったのかが、今のマレンゴの言葉で、すっかりとわかってしまったのです。
「マレンゴさん、僕、気づきましたよ。
この千年帝国に対して感じていた違和感。
今のマレンゴさんの言葉で、僕、分かったんです」
「ほう、面白そうだな」
マレンゴは、階段を昇る足を止めて、振り返りました。
「さっきマレンゴさん、言いましたよね。
この船の造りが、各階ともほとんど同じだって」
「ああ、確かにそう言ったけれど・・・
それが何か?」
「何処も彼処もほとんど同じ、
どこを切っても同じの、まるで金太郎飴みたいなのは、
千年帝国の母艦の造りだけじゃありませんよ、マレンゴさん」
「・・・・」
「親衛隊の連中ですよ。
彼らは、みんな同じ表情をしていて、
全く個性と言うものが感じられないんです。
まさしくそれが、マレンゴさんも言ってた軍隊なんでしょうけれど」
「なるほどな・・・」
2人の会話を聞いて麻袋からタカシくんが、またぴょこんと顔を出しました。
「MARUZOHさんも、そう思った?
僕もそう思ってたんだよ。
だって、親衛隊の人たちって、
つまらなそうな顔した人ばかりなんだよ。
みんなガルルのおじさんの家来になって、
笑うこと、忘れちゃったんじゃないのかな・・・
さっきね、それを、最上階でガルルのおじさんに
教えてあげようとしたんだけど、
船が揺れたんで言えずじまいったんだ」
タカシくんが突拍子も無いことを、しかも、あまりにも的を射たことを言い出したので、MARUZOHくんとマレンゴは、顔を見合わせて、ぷっと吹き出してしまいました。
ここは、7階の踊り場。最上階の架電室まで、もうすぐです。
《つづく》
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